天鐘(4月3日)

初冬の季語に「帰り花(返り花)」というのがある。歳時記には、桜、桃、梨、山吹などが小春日和に時ならぬ花を咲かせること、とある。「二度咲き」「帰り咲き」もこれに当たる▼咲き終えた花が一定の時を経て、また美しくよみがえる。自然の命の営みに、古く.....
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 初冬の季語に「帰り花(返り花)」というのがある。歳時記には、桜、桃、梨、山吹などが小春日和に時ならぬ花を咲かせること、とある。「二度咲き」「帰り咲き」もこれに当たる▼咲き終えた花が一定の時を経て、また美しくよみがえる。自然の命の営みに、古くから多くの俳人たちが心を寄せてきた。季節は違うが、そんな帰り花のような趣を、大関復帰の大相撲・照ノ富士に見る▼けがと病気で序二段まで落ちた。給料はなし、付け人もいない。絶頂の時代とは天と地ほどの落差である。プライドは打ち砕かれ、自暴自棄になった。何度も「辞めたい」と、親方に申し出たという▼その都度、「また、元の番付(大関)まで」と引き留められた。山頂から転げ落ち、同じ道を登る。歯を食いしばり、泥だらけになり、はい上がった。「親方、おかみさん、皆に感謝」。笑顔に万感の思いがにじんでいた▼どん底を見た人が再起を期すとき、思い出す五行歌がある。〈いっそ/大きく凹(へこ)もう/いつか/多くを満たす/器になるのだ〉(伊東柚月)。強い器となるべく積み重ねた努力。今、再びの大輪である▼二度目の口上は、多くを語らなかった。「思いは、最初の昇進のときと変わりません」。21場所かけての復活劇に胸を熱くした人も多かろう。〈励ましの一語に似たり返り花〉宮崎芳子。あきらめなかった人に、背中を押される春である。