天鐘(12月26日)

その昔、演歌に対しては、暗く、悲しい曲というイメージしか持てなかった。夜の盛り場、男と女、酒、涙…。決まって登場するキーワードはどれも重たく、聞くのがつらかった▼そうした印象が変わったのが、1982年の『北酒場』である。居酒屋に現れた一人の.....
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 その昔、演歌に対しては、暗く、悲しい曲というイメージしか持てなかった。夜の盛り場、男と女、酒、涙…。決まって登場するキーワードはどれも重たく、聞くのがつらかった▼そうした印象が変わったのが、1982年の『北酒場』である。居酒屋に現れた一人の女性。隣に座ったのが縁で、大人の恋が小さく燃え始める。軽やかな曲調に乗って、細川たかしさんの高音が伸びた▼レコード大賞にも輝いたこの歌の作詞は、なかにし礼さん、作曲は中村泰士さん。昭和の歌謡史に太く刻まれたその名と共に、誰もが耳にして思い出す楽曲は多かろう。同じ細川さんの『心のこり』も、お二人の作だ▼共に、戦争体験者。なかにしさんは七五調を「軍歌のリズム」と、絶対に使わなかったそうだ。『北酒場』をなぞれば、なるほどと思う。その“破調”を、中村さんの奔放な音が包み、歌は大衆に弾(はじ)けた▼音楽の神様も、何を思ってのことだろう。連日の訃報に言葉を失う。一昨日に中村さん、そして、昨日はなかにしさん。この秋に旅立った筒美京平さんに続き、歌謡界の巨星たちがこの年末、また静かに去って行った▼カラオケが一般的ではなかった時代、八戸市の繁華街からも、ほろ酔いの『北酒場』が聞こえた。皆が口ずさめる歌があることがありがたい。昨夜、北の酒場通りは、ひっそりと沈んで見えた。コロナのせいばかりではあるまい。