時評(10月17日)

菅義偉政権が発足後1カ月で、日本学術会議の会員任命拒否問題を巡る苦境に立たされている。菅首相は「あしき前例主義の打破」を宣言し、学術会議人事でも「推薦された方をそのまま任命する前例を踏襲していいのかを考えた」と語った。 しかし、学問の自由に.....
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 菅義偉政権が発足後1カ月で、日本学術会議の会員任命拒否問題を巡る苦境に立たされている。菅首相は「あしき前例主義の打破」を宣言し、学術会議人事でも「推薦された方をそのまま任命する前例を踏襲していいのかを考えた」と語った。[br][br] しかし、学問の自由に関わる重大な問題で前例主義の打破を持ち出すのは、標的の設定を誤っている。「人事の秘密」を盾に拒否理由を明確に説明しない姿勢に、国民が納得しないのも当然だ。首相は任命拒否を撤回し、政治の混乱を収拾すべき責任を負っている。[br][br] 新内閣の滑り出しは順調だった。携帯電話料金の値下げや不妊治療の保険適用拡大、マイナンバーカード普及を目指すデジタル庁創設など、生活に身近な政策目標を矢継ぎ早に打ち出した。分かりやすい政策がスピード感を伴って実現されそうだとの期待を高めることに成功し、報道各社の世論調査の内閣支持率は60~70%台の高水準を記録した。[br][br] だが、10月に入って学術会議の任命拒否問題が発覚し、政権に逆風が吹き始めた。安倍晋三前政権当時から首相官邸が学術会議人事に介入していた事実も判明、前政権を官房長官として支えた菅首相に対して国民が持つイメージも変化したようだ。[br][br] 自民党総裁選で「雪深い秋田の農家の長男」と、庶民性をアピールした首相の表情の裏側に、時として強権を振るう冷徹な政治家の素顔を読み取った国民が多いのではないか。[br][br] 新内閣は、最優先課題と位置付ける新型コロナウイルス対策と経済再生の両立でも、首相が官房長官として推進した目玉事業の「Go To トラベル」の利用制限などを巡って失態を演じた。[br][br] 菅首相は自民党の派閥に属さず、党内基盤は脆弱ぜいじゃくだ。世論の支持が政治力の最大の源泉と言っていい。学術会議問題の混乱が長引き、看板政策の実績作りも進まなければ、内閣支持率が急落する局面も予想される。1年以内に迫る次期衆院選に向け、首相が「選挙の顔」としてふさわしいのかとの疑問を抱く議員心理が自民党内で広がり、首相の求心力に陰りが生じる可能性も出てくる。[br][br] 菅首相には、各論先行で国家像などの総論が見えないとの批判があることを自覚し、26日召集の臨時国会での所信表明演説や論戦を通じて、自身が目指す日本の将来像を国民に語りかけ、理解を求めるよう注文したい。民意を失えば短命政権に終わることを、肝に銘じるべきだ。