時評(8月15日)

日本の国土の多くが焼き尽くされ、多数の命が奪われた戦争終結から75年の日を迎えた。 激しい戦闘に倒れた兵士、空襲や原爆投下、沖縄戦などに巻き込まれた市民らの無念を思い、不戦の誓いを新たにしたい。東京では遺族や天皇、皇后両陛下らが出席し戦没者.....
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 日本の国土の多くが焼き尽くされ、多数の命が奪われた戦争終結から75年の日を迎えた。[br] 激しい戦闘に倒れた兵士、空襲や原爆投下、沖縄戦などに巻き込まれた市民らの無念を思い、不戦の誓いを新たにしたい。東京では遺族や天皇、皇后両陛下らが出席し戦没者追悼式が開催される。新型コロナウイルス感染のため規模を縮小するが、日本側だけで約310万人という犠牲者の冥福を祈る。[br] 敗戦から3四半世紀がたち、戦火の記憶が薄れるのは避けられない。高齢化が進んだとはいえ、悲惨な戦いや戦時下の厳しい生活を実体験した人は少なくなっている。[br] なぜ無謀な戦争に突き進み、破局にまで至ってしまったのか。歴史の実相を知り、戦禍を繰り返さないためにも、貴重な体験証言や記録が失われないよう収集、保存して次世代につないでいく取り組みが欠かせない。[br] 終戦時、戦争に関する大量の公文書類が焼却されてしまった。当時の状況を検証するには、個々人の記憶や保管資料などが重要な役割を担う。[br] ただ既に戦後生まれが人口の8割を超え、証言者の数は減る一方だ。肉声で戦時体験を聞いたことがない世代が増えるに連れ、実態を伝えるのも難しくなる。沖縄戦で集団自決した住民の遺品などが置かれた自然壕(ごう)が、地元の少年に荒らされた事件は衝撃的だった。被爆地でも、若者らに核兵器の脅威をどう理解してもらうか苦悩する。[br] 広島市や長崎市は高齢化した被爆者に代わり、より若い世代を伝承者に育成し体験を受け継ぐ事業を進める。東京都国立市も被爆や東京大空襲の語り手を育て公民館などで講話を行う。各地域で、若者らに事実を伝える工夫を重ねてほしい。[br] 広島市の原爆ドームや長野市の松代大本営跡など、戦争遺構の保存も課題だ。老朽化などから解体される例も少なくない。見る人に強い印象を与える遺構をどう扱うか、十分議論してもらいたい。[br] 戦後の日本は平和憲法の下、専守防衛を掲げて他国と戦うことなく復興を進めた。だが昨今、ミサイル防衛を巡り「敵基地攻撃能力」の保有論が浮上している。世界では武力紛争が絶えず、米中対立は緊張感を高める。[br] 平和の尊さを実感し、武力に頼らない社会を築くには、先人が歩んだ道を知ることも必要だ。一方で、証言記録などの散逸を防ぎ、組織的に保管・公開する体制は不十分なのが現状だろう。歴史の細部まで後世に伝えられる仕組みの整備を望む。