北朝鮮の金正恩（キムジョンウン）朝鮮労働党総書記に直結する日本政府との秘密交渉役が数年前、体調不良を理由に連絡を絶ったことが１４日、分かった。複数の日本政府関係者が共同通信の取材に「両国の裏ルートが途絶えた」と話した。故金正日（キムジョンイル）総書記時代以来、日本との秘密協議を担い、２００２年の小泉純一郎首相の訪朝実現に至る協議を支えた一人。１４年に拉致被害者田中実さん＝失踪時（２８）＝ら２人の入国情報を日本に伝えた。[br][br] 日朝首脳会談を呼び掛ける菅義偉首相はあらゆるルートを通じ金総書記に直接つながる交渉役の確保を試みている。ただ北朝鮮は新型コロナウイルス対策で国境を封鎖し東京五輪への不参加も表明。北朝鮮との接触を模索する菅政権は苦しい対応を強いられている。安倍晋三政権で拉致問題担当相だった菅首相の事務所は取材に「お答えできない」と回答した。[br][br] 日本政府関係者によるとこの交渉役は、小泉氏訪朝前後から日本との秘密協議を担っていた「ミスターＸ」と言われた国家安全保衛部（現国家保衛省）幹部の部下。０２年の小泉首相訪朝に伴う交渉にミスターＸと共に関わった。[br][br] ミスターＸが約１０年前に失脚して後任となり、中国やモンゴルなどで日本側と協議を重ねてきた。日本人拉致の再調査などを盛り込んだ１４年のストックホルム合意を巡る協議を担当。それまで未入国としていた田中さんと、新たに金田龍光さん＝同（２６）＝の入国情報を日本に伝達した。[br][br] １４年にモンゴルで実現した故横田滋さん、妻早紀江さん（８５）と、長女の拉致被害者めぐみさん＝同（１３）＝の娘キム・ウンギョンさん一家の面会も調整した。[br][br] 本人が数年前、日本側に「体調を崩した」と連絡してきた。脳か循環器系の不調というが日本との交渉が進まず、更迭された可能性もある。日朝交渉を担う北朝鮮外務省には宋日昊（ソンイルホ）大使がいるが、日本政府関係者は「窓口でしかなく権限がある秘密交渉役とは違う」としている。[br][br] 日本政府は北村滋国家安全保障局長が内閣情報官時代に北朝鮮と接触したが、大きな進展はみられない。早紀江さんら被害者家族は４月７日、訪米を控える菅首相と面会し、被害者の早期帰国の実現を改めて訴えた。
