天鐘(10月24日)

何年か前、早起きして岩手県北の稲庭岳(標高1078メートル)に登った。濃霧で眺望は絶望的だったが、山頂から眼下を望むと麓一面に雲海が垂れ込め、歩いて渡れそうな錯覚を覚えた▼これぞ「三文の得」だと実感した。でも、文字にすると自然から頂いた絶景.....
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 何年か前、早起きして岩手県北の稲庭岳(標高1078メートル)に登った。濃霧で眺望は絶望的だったが、山頂から眼下を望むと麓一面に雲海が垂れ込め、歩いて渡れそうな錯覚を覚えた▼これぞ「三文の得」だと実感した。でも、文字にすると自然から頂いた絶景が「三文の得」では余りに申し訳ない。確かに幸運ではあったが、お金を拾った訳でもないのに「得」はどこかしっくり来なかった▼辞書を捲(めく)ると「大辞林」「広辞苑」は「徳は得とも」と注釈付きで「早起きは三文の徳」を採用。文化庁「ことばのゆれ」調査(平成14年)の随想では、「徳か得かは“三文”の捉え方で異なる」と解説していた▼拾った三文(約300円)は実利の得だが積み重ねれば徳にもなる。語源は中国の散文『早起三朝當一工』(3日早起きすれば1人分の働きに相当する)。「三朝」がどこかで「三文」にすげ変わったようだ▼「朝、堤防を踏み固めれば三文もらえた」の高知説。生類憐れみの令で「家の前で鹿が死んでいると三文の罰金になるから、朝早く起きて片付けた」との奈良説。時代の都合で徳から得に汎用(はんよう)されるようになった▼とは言え朝は温かな布団から離れがたい。無理をして健康を害しては元も子もないが、朝日は体内時計をリセットし、免疫力を向上させてくれるという。新型コロナ時代の早起きは“一挙両得(徳)”を授けてくれそうだ。