時評(8月30日)

久慈市でギンザケの海面養殖試験が進んでいる。2028年度に完成予定の久慈港湾口防波堤の整備をにらみ、波が穏やかになることを見据えた取り組み。関係者との調整を経て、秋サケやスルメイカなどの不漁にあえぐ地元漁業者を救う事業に発展することを期待し.....
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 久慈市でギンザケの海面養殖試験が進んでいる。2028年度に完成予定の久慈港湾口防波堤の整備をにらみ、波が穏やかになることを見据えた取り組み。関係者との調整を経て、秋サケやスルメイカなどの不漁にあえぐ地元漁業者を救う事業に発展することを期待したい。[br] 3カ年計画の試験は今のところ順調に推移している。昨季は春から秋にかけて、700グラムまで中間飼育したギンザケを湾内に設置した小型のいけすで4倍近くに養殖し、約6千匹を水揚げした。今季は昨年秋から今月にかけて、より小さい200~300グラムの稚魚を越冬させ、10倍ほどに育てた約3万3千匹を水揚げした。[br] ギンザケは海水温が5度以下になると餌を食べなくなるが、冬場の最低水温は6度で大きな影響はなく、いけすは冬季のしけでも壊れなかった。[br] 最終の来季は稚魚の数をさらに増やし、いけすの密度を高めた上で、約6万匹の水揚げを目指す方針だ。[br] ギンザケを含むサーモン類は、回転ずしでの人気を背景に需要が年々拡大。日本だけでなく、中国や東南アジアでも消費が急増している。[br] 久慈市での養殖事業は、海水温の低さによる水揚げ時期の遅さが最大の強みになる。[br] 養殖に適した水温は8~20度。国内トップ産地の宮城県での水揚げは、水温が20度を超えない7月中旬に終わるが、久慈市の水温は宮城より2~3度低いため、8月に水揚げができる。8月はギンザケが品薄となる上、市場価格が上昇するお盆時期と重なる。[br] 需要が拡大している水産物を、高値が見込まれる時期に集中して水揚げ・出荷できることは、事業化する上で大きな利点だろう。[br] また、秋サケやスルメイカに代表されるように、沿岸・漁船漁業は突如として不漁に見舞われることがあり、そもそも水産資源量にも限界がある。[br] これに対して「つくり育てる」養殖漁業は、計画的な供給体制や経営見通しが立てられる上、高品質の水産物を効率的に生産できる。拡大する需要に対応するためには欠かせない産業で、今後さらに重要性が増すことが見込まれる。[br] 近年の海水温上昇により、水温が低い「北の海域」での養殖に業界の注目が集まっているという。静穏な環境などの条件はあるだろうが、久慈市での取り組みが、北奥羽地方全体での養殖漁業振興の契機となることを期待したい。