東京五輪・パラリンピック後の9月の衆院解散論が菅政権内で有力となった背景には、新型コロナウイルス収束が見通せないとの事情がある。菅義偉首相にとって解散時期の選択肢は狭まるばかりだが、9月末に任期満了を迎える自民党総裁選の前に衆院選を実施したいとの思惑がちらつく。勝利すれば総裁選は無風となり、本格政権に一歩近づくことができるためだ。ただ総裁選延期が必須となり、党内から異論が出かねない。[br][br] ▽支配的[br] 「一日も早く緊急事態宣言を解除できるよう対策を徹底する」。党首対決となった10日の衆院予算委員会。首相は立憲民主党の枝野幸男代表の追及に対し、コロナ対応に全力を挙げると訴えた。[br][br] 首相にのしかかるのは、コロナとの闘いだけではない。衆院議員の任期満了が10月下旬に迫る中での解散判断だ。[br][br] 早期解散は7月4日の東京都議選を重視する公明党が嫌う。コロナの影響により、支持母体・創価学会の活動がままならない山口那津男代表は「解散は当面なかなか難しい」と主張する。[br][br] 自民内では、野党の内閣不信任決議案提出見送りで「今国会中に解散する理由が失われた。都議選との同日選はほぼなくなった」(幹部)との意見が支配的だ。東京五輪に続き、パラリンピックが終わる9月5日まで解散は困難との声が強い。[br][br] ▽菅降ろし[br] 解散をパラリンピック後に持ち越せば、問題となるのが党総裁選だ。党規程は告示について「投開票日の12日前まで」、投開票日は「任期満了日前10日以内」と規定。最も早い日程は「9月8日告示―20日投開票」だ。[br][br] 総裁選日程は任期満了の1カ月前までに決めなくてはならない。遅くとも8月下旬には党内手続きが必要となる。首相はパラリンピック閉幕を迎える前に、総裁選を規程通り実施した上で解散するか、先に解散を断行し総裁選を先送りするかの決断を迫られる。[br][br] だが首相には「解散先行」が念頭にありそうだ。コロナ感染拡大を抑えきれず、内閣支持率が低迷状況に陥った場合、「菅降ろし」の動きが出かねないからだ。無派閥出身の首相は党内基盤が決して盤石ではない。有力な「ポスト菅」候補がいなくても総裁選で苦戦する展開もあり得る。[br][br] 総裁選が繰り延べとなれば「党史上初」(関係者)といい、規程改正が必須となる。1986年に当時の中曽根康弘首相の総裁任期を1年延ばした際、党大会に代わる両院議員総会を開き満場一致で決めた。経緯を知る幹部は「今回も任期延長に当たる。基本的に両院議員総会での全会一致が求められる」と説明する。[br][br] ▽奇策[br] 首相に近いベテランは「自民は融通無碍(むげ)だ。規程はどうにでもなる」として、総裁選先送りを予測する。ワクチン接種が順調に進み、衆院選に勝てば総裁選で無投票再選できると踏む。[br][br] 安倍晋三前首相はテレビ番組で「選挙で国民は菅氏を選んでいる。その後、党内で代えるのか」と述べ、衆院選先行のパターンをわざわざ例示して菅首相続投を支持した。若手は「衆院選で議席を確保した後なら議員の身分は安泰だ。トップは誰でもいい」と語った。[br][br] ただ不安材料も残る。規程改正という奇策は「ポスト菅」を目指す議員らから反発を招く恐れがある。党幹部の一人は「先に総裁選をやらないと党内が収まらないのではないか」と危惧した。