サッカー界に激震が走った強豪12クラブによる欧州スーパーリーグ(ESL)構想が、発表からわずか数日で事実上頓挫した。一部クラブに利益が集中する計画に批判が殺到。政界までも巻き込む大騒動となり、参加クラブは次々と撤退に追い込まれた。[br][br] ▽コロナ禍が引き金[br] 世界的なビッグクラブを集めた新リーグ発足の動きは、1998年以降たびたび取り沙汰されてきたが具体化することはなかった。今回は新型コロナウイルスの影響による財政悪化が引き金となり、長年うわさされていた改革案が表面化した。[br][br] 狙いは欧州サッカー連盟(UEFA)が主催する世界最高峰の欧州チャンピオンズリーグ(CL)に代わる、人気クラブやスター選手が集結する新大会の創設。CLの価値向上に貢献しながら、UEFAの収益分配に不満を持つ強豪クラブが大胆な「独立」を企てた。[br][br] 英紙フィナンシャル・タイムズによると米金融大手JPモルガン・チェースが出資し、放送権とスポンサー収入はCLの約2倍に当たる年間総額40億ユーロ(約5200億円)に上ると試算した。[br][br] ▽米国型に反発[br] ESLは参加20クラブ中、創設メンバーの15チームが毎年参加できる点が鍵だった。下部への降格がなく、経営リスクの少ない米プロスポーツ型のアイデアを主導したのがイングランドの名門マンチェスター・ユナイテッドやリバプールの米国人オーナーとされる。[br][br] 地元サポーターよりテレビなどで視聴する世界のファンを意識した姿勢も見え隠れした。レアル・マドリード(スペイン)のペレス会長は同国のテレビで「16~24歳の4割がサッカーに興味を失っている」と懸念を示し、人気チームの対決を増やすことで魅力的なコンテンツになると踏んだ。 ところがピラミッド式のリーグ戦を中心とする欧州のサッカー文化を軽視し、歴史と伝統に誇りを持つファン心理を読み切れなかったことが反発を招く原因となった。[br][br] ▽政界から圧力も[br] 反響は政界にも及び、英国のジョンソン首相は記者会見で一部の有力クラブによる「カルテル」だと批判。BBC放送によると、英政府はESLへの参加クラブを対象に外国籍選手へのビザ発給の拒否や、試合会場警備の補助打ち切りをちらつかせて圧力をかけた。[br][br] 反発は与野党の垣根を越えて広がり、政府による強硬措置は難なく議会で立法化される勢いだった。世論の目も厳しく、大手調査会社ユーガブによると英国のファンの8割が構想に反対。欧州諸国も懸念を共有し「各国リーグでの競争を保護する必要がある」(イタリアのドラギ首相)といった声が上がった。外堀が埋まり、計画を推し進める道は絶たれた。(ロンドン共同)