イラン核合意の復活を目指すウィーンでの米イラン間接協議。トランプ前米政権の合意離脱後約3年ぶりの本格交渉は「イスラエルの妨害工作」と疑われるイラン核施設爆破で出はなをくじかれたが協議は続いた。米国が経済制裁を解除し、同時にイランは核開発の制限を受け入れるという難題は、欧州仲介の“伝言ゲーム”で解決できるか。交渉当局者らの証言で、薄氷を踏む駆け引きの内幕が明らかになった。[br][br] ▽シャトル外交[br] 今月6日。古都ウィーンは雪に見舞われた。イラン代表団は羊肉と豆を煮込む伝統料理ゴルメサブジで腹ごしらえをし、核合意当事国の英仏独中ロと協議に入った。米代表団は、近くのホテルに待機していた。[br][br] 仲介は主に欧州連合(EU)が担い、イランが示した見解を米国に伝え、反応をイランに送り返す「シャトル外交」を展開。制裁解除と核開発制限を同時並行で実施するため、まず互いの詳細な行動計画をまとめるというイラン案が、たたき台になった。[br][br] 協議の結果、両国が取るべき行動を詰める二つの専門部会が始動。イラン高官は「一歩進んだ」と上機嫌で、米欧も評価した。精力的な議論が続き、交渉は軌道に乗り始めたかに見えた。[br][br] ▽裏のメッセージ[br] 異変が起きたのは11日。イランのナタンズ核施設で爆発が起き、遠心分離機が破壊された。イランを「共通の敵」としてトランプ前政権と蜜月を築いたイスラエルが、バイデン政権のイラン歩み寄りを嫌い、妨害工作を仕掛けた―。イランはそう断じた。[br][br] イランは報復を宣言し13日、ウラン濃縮度を兵器級に迫る60%に引き上げる強硬策を表明。ただ発表したのは本国政府ではなく、ウィーンで交渉を率いるアラグチ外務次官。「交渉の席は立たない」。裏のメッセージが込められた。[br][br] 15日の全体会合で、イランは「イスラエルの犯罪を見過ごす欧州の偽善」を批判した。欧州は「交渉を危機に陥らせる」と60%濃縮を非難し、会場には冷ややかな空気が漂ったが、間接協議の崩壊は免れた。[br][br] ▽融和発言[br] 翌16日、イランは予告より早く濃縮度60%到達を発表。交渉は続けるが、制裁解除を急がねば際限なく核開発を進めるとの威嚇だった。非難を浴びる60%濃縮を逆にカードとし、譲歩の価値をつり上げるペルシャ流交渉術。この時期、5月中旬の暫定合意を目指す方針も固まった。米国には解除できる制裁のリストを提出するよう迫った。[br][br] バイデン米大統領はワシントンでの日米首脳会談後の記者会見で、60%濃縮への強い批判を避け「イランがわれわれとの議論を続けることは喜ばしい」と融和的な発言をした。これを受け、17日に今月5回目の全体会合が急きょ開かれ「交渉継続の決意が表明された」(ロシア代表)。[br][br] イランのアラグチ氏も「新たな合意が形成されつつあるようだ。交渉の道筋はよりはっきりしてきた」と前向きにとらえた。しかし、付け加えることも忘れなかった。「決して平たんな道ではない」。(ウィーン共同)