政府は世界文化遺産登録を目指す新たな国内候補の発掘に乗り出す。現在5件の候補が国連教育科学文化機関(ユネスコ)への推薦を待っているが、確実な登録に向け、リストをさらに充実させる。候補から漏れながらも地道な活動を続けてきた関係者の期待は高まるが、総数で千件を超えた世界遺産の審査は年々厳しさを増しており、国内選考といえども「狭き門」となりそうだ。[br][br] ▽挑戦権[br] 「在任中にぜひ阿蘇のカルデラを世界遺産にしたい」。先月21日に熊本県益城町で開かれたシンポジウムで、蒲島郁夫知事は力を込めた。[br][br] 県北東部にある「阿蘇カルデラ」は太古の火山活動で生まれた巨大なくぼ地だ。文化庁がかつて行った候補公募に応じたが落選した。再び巡ってきた遺産登録への「挑戦権」獲得の機会に着々と準備を進める。[br][br] 明治、大正期に欧米から導入した技術で先進的な堤防群を整備した富山県の「立山砂防」も再挑戦組。数百年続く喫茶文化を伝承する京都府の「宇治茶の文化的景観」も候補入りをうかがう。[br][br] ▽後回し[br] 各国政府はそれぞれの国内候補を記載した「暫定リスト」をユネスコに提出している。日本の候補は自然遺産1件を含め現在7件で、うち文化遺産1件と自然遺産は既に推薦され今夏に登録審査を受ける。[br][br] 一方、奈良県の「飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群」は2007年にリスト入りしながら、いまだ推薦に至っていない。新規候補追加に県担当者は「強く懸念はしていない」と平静だが、有力候補が現れれば後回しとなる懸念はぬぐえない。[br][br] ▽一本釣り[br] 文化庁は06、07年に公募を行い、候補を追加した。しかし今回は実施しない。表向きは文化審議会による学術的な検討を優先させるためなどと説明している。[br][br] ただ世界遺産の総数は1121件に達し、「増やしすぎ」との批判もある。公募しないのは、登録が見込める有力案件を「一本釣りする」(文化庁幹部)狙いもある。[br][br] 世界遺産に詳しい国学院大の西村幸夫教授(都市計画)は「公募した結果、自治体間の競争が過熱した」と振り返る。その上で「自分たちの文化遺産の価値をより多くの人に深く理解してもらうことが大事だ」とし、各自治体が世界遺産を目指して活動する過程にこそ意義があると強調した。