台湾の特急列車の脱線事故は連休初日の朝、トンネル手前の斜面を滑り落ちた工事用作業車と衝突して起きた。先頭の運転席はトンネル内の暗がりで真っ二つに。現場のレールにはブレーキ痕がくっきり残り枕木も数メートルにわたって断裂、事故の衝撃の大きさを物語る。風光明媚(めいび)な観光地に向かう列車に何が起きたのか。生存者の証言や地元報道から事故を再現した。[br][br] ▽急転[br] 「次々と人が覆いかぶさりながら倒れ、動かなくなった」。衝突の衝撃で8両編成の特急は激しく揺れながら急停止した。声を震わせる女性乗客。自らの命は助かったが、胸や腰の痛みが引かない。「小さな子どももたくさん倒れていた…」 2日午前9時半(日本時間同10時半)ごろ。険しい断崖と渓流で知られ、日本人にも人気が高い台湾屈指の観光地、太魯閣(たろこ)峡谷に向かう特急列車「太魯閣号」はトンネルにさしかかっていた。[br][br] 厳しい入境規制で新型コロナウイルス抑え込みに成功した台湾に新規感染者はほぼいない。この日は先祖を供養する祝日「清明節」の4連休の初日。家族連れら乗客約490人の多くは楽しい休暇で頭がいっぱいだったはずだ。[br][br] だが一瞬で悲劇に急転する。トンネル入り口近くの線路に工事用作業車が立ちふさがっていたからだ。線路脇斜面上の道路に40代の運転手が休憩のため停車した作業車が、約20メートルの高さから斜面の草木をなぎ倒して滑り落ちていた。パーキングブレーキがかかっていなかった疑いがある。[br][br] ▽怒号[br] 作業車と衝突した先頭車両は、脱線しながらトンネルに突入。先頭の運転席は壁にぶつかり、車体は左右真っ二つに割れた。衝撃はあまりに大きかった。列車が止まったのは8両編成の先頭5両半がトンネルに入ってからだ。前方の2車両は暗いトンネル内で原形をとどめないほど激しくひしゃげた。[br][br] 「あちこちからうめき声が聞こえてきた」。直後に駆け付けた救助隊員によると、列車内は荷物が散乱、床は血だらけで、満員の車内は電気が切れたため気温も相当上がっていた。[br][br] 線路脇には列車と衝突した作業車が裏返しになって倒れ、サイドミラーの付いたドアはガラス窓が全て割れた状態で無残に地面に落ちていた。[br][br] 先頭から2両目の車体がトンネル内部をふさぐような形になり、救出作業は難航。軍に加え、近隣自治体からも救助隊が集まったがトンネル内は暗く、ヘッドライトの明かりだけが頼りだ。[br][br] 「子どもが先だ」。救助隊員らの怒号が響く。大破した車体を電動のこぎりで切断しても、狭いトンネル内では思うように作業がはかどらない。[br][br] 即死だったとみられる列車の運転士(33)は結婚2年目。列車の写真を持ちながら妻と手をつないで歩く結婚式の様子が地元テレビで繰り返し放映され、視聴者の涙を誘った。(花蓮共同)