政府は26日、安全保障上重要な土地利用を規制する法案を国会に提出した。自衛隊基地周辺や国境の島が外国資本により買収され、日本の安保環境が脅かされる事態を警戒しているためだ。法案を巡り、私権制限の拡大につながると公明党が一時難色を示したが、自民党との修正協議で規制は必要最小限とする規定を明記し、折り合った。ただ規制対象の重要インフラや、国の調査項目は政令で決めるなど恣意(しい)的な運用への懸念が残る。[br][br] ▽不安[br] 「安全保障の観点から防衛関係施設などの機能を阻害する行為を防止するために重要な法案だ」。加藤勝信官房長官は26日の記者会見で、今国会での成立を目指す考えを示した。[br][br] 法案は自衛隊基地、原発、空港など重要施設の周囲約1キロや国境離島を国が「注視区域」に設定すると規定。所有者の調査や妨害行為への中止命令が可能で、罰則も科せる。自衛隊司令部周辺や、領海の基点となる無人国境離島などは特に重要性が高い「特別注視区域」とし、一定以上の面積の売買は氏名、利用目的などの事前届け出を義務付ける。[br][br] 近年、自衛隊施設周辺の土地を外国資本が買収する事例が相次いだ。北海道千歳市で中国、長崎県対馬市では韓国に関係する会社の土地取得が判明し、地域に動揺が広がった。小此木八郎領土問題担当相は「実態が不透明な土地買収は、長く問題視されてきた。国民には不安の声がある」と法案の意義を強調する。[br][br] ▽疑念[br] 菅義偉首相は昨年10月、小此木氏に「しっかりと成果を上げられるよう検討を進めてほしい」と法制化を指示。公明党に慎重論が広がり当初想定した今年3月上旬の閣議決定が先送りされた後も、自民党の「安全保障と土地法制に関する特命委員会」の新藤義孝委員長に与党調整を要請した。[br][br] 公明党は、法案の目的自体には理解を示す一方、調査や規制の対象が多く、国民に不利益をもたらしかねないと懸念。防衛省(東京都新宿区)周辺などの市街地を特別注視区域に指定することで想定される経済活動への悪影響も「看過できない」と態度を硬化させた。[br][br] 特別注視区域での事前届け出を義務付ける条文にも、一時は規定の削除を探る強硬論が出たほどだった。自民党と協議を重ねる中で規制対象を絞り込み、措置の実施には個人情報に十分配慮し、必要最小限度にとどめる義務規定を設けた。[br][br] 野党は対決姿勢を強める。共産党の小池晃書記局長は、注視区域指定後の国の調査により、踏み込んだ個人情報の収集が行われかねないとの疑念を抱く。自衛隊基地施設の土地所有を巡り自衛隊の運用に支障を来した事例は確認されておらず「立法事実がない」として廃案に追い込む構えを見せている。