東京五輪・パラリンピック開閉会式の企画、演出の統括役である佐々木宏氏が、式典に出演予定だったタレントの渡辺直美さんの容姿を侮辱する内容の演出を提案していたことが発覚し、辞任に追い込まれた。五輪開幕を4カ月後に控え、目玉となる開閉会式のトップが不在となる前代未聞の事態。演出チーム内の不協和音も判明し、相次ぐ不祥事で迷走が続く大会は再び「中止論」が高まりかねない状況だ。[br][br] ▽火消し[br][br] 17日夕、「文春オンライン」で佐々木氏が昨年3月に渡辺さんへの演出アイデアとして動物をモチーフにしたキャラクターを提案していたことが報じられると、大会組織委員会に激震が走った。[br][br] 報道では、佐々木氏が昨年3月にチームのメンバーに送ったLINE(ライン)のメッセージ画像が掲載され、不快感を催すような動物の絵文字も使われていた。これを見た幹部は「持たない。下手に慰留をすれば、橋本聖子会長がやられる」と危機感を募らせ、火消しを急ぐ必要があると判断。夜には橋本氏が佐々木氏と電話で協議し、辞意を受け入れる形で事態の収拾を図った。[br][br] 2月には森喜朗会長が女性蔑視発言で引責辞任したばかり。信頼回復の途上でまたしても大打撃を受ける形となった。森氏の後を継ぎイメージ刷新を託された橋本氏は会長就任からちょうど1カ月の18日、記者会見で「大変申し訳なく思っている」と謝罪するという皮肉な状況に陥った。[br][br] ▽これまでも曲折[br][br] トップ不在の異常事態となった開閉会式チームを巡っては、これまでも紆余(うよ)曲折があった。[br][br] 組織委は2017年12月に企画、演出チームのメンバー8人を発表。当初は、映画監督の山崎貴やまざきたかし氏が中心的役割を担うとみられていた。しかし、チームはまとまりを欠き、18年7月に狂言師の野村萬斎氏を総合統括とし、山崎氏を五輪、佐々木氏をパラの担当に据える体制を発表。新たに野村氏が軸になった。しかし、チームはそれでもうまく回らず「あつれき」も生じていたという。[br][br] これまで公表されてこなかったが、19年には「しっかり立て直していく必要がある」(武藤敏郎事務総長)として、実質的な五輪の仕切り役は「執行責任者」に就いた振付家のMIKIKO氏へと再度変更。さらに昨年3月に新型コロナウイルス禍で大会が延期になると、今度は森氏の信頼が厚かった佐々木氏が五輪とパラの両方を見る形へと移行した。MIKIKO氏は組織委に辞意を伝達し、昨年12月、二転三転したチームはついに解散。佐々木氏に意思決定が一本化された。[br][br] ▽火花[br][br] これほどまでに体制が変遷した背景に、各界を代表する個性の強いメンバーを束ねることが極めて難しかったことが挙げられる。森氏も昨年12月に「芸術家は絶対に妥協しない。信念と信念がぶつかると火花が散る」と指摘。関係者は「最大の失敗は8人選んだことだ。4番打者を8人集めても、チームにならなかった」とため息をついた。[br][br] 開幕まで残された時間は少ない。橋本氏は統括役の後任人事を急ぐ一方で、今後の式典の制作作業について「また一からつくり上げるのは非常に困難」とし、現プランを踏襲していく方針を示した。しかし、引責辞任した佐々木氏が手掛けた案が、世間の納得を得られるかは見通せない。さらなる「逆風」にさらされる懸念も残っている。