国内で8600万人以上が利用する国民的アプリ「LINE(ライン)」の個人情報が中国の関連会社で閲覧可能になっていた。IT分野では開発業務の一部を海外企業に委託するのは珍しくないが、個人情報の危うい管理実態が明らかになり、海外に漏えいするリスクが改めて露呈した。[br][br] ▽社会インフラ[br][br] 発端は1月下旬。LINEとの経営統合を目前に控えたZホールディングス(HD)に、LINEの個人情報取り扱いに疑義があるとの情報が外部からもたらされた。ZHDからの指摘でLINEが確認したところ、管理の不備が発覚した。[br][br] ヤフーを傘下に持つZHDとLINEはインターネットサービスで国内最大級のIT企業になる構想を描き、今月1日に経営統合したばかりで、スタート早々に出はなをくじかれた格好だ。[br][br] LINEは東日本大震災をきっかけに開発され、安否確認などを簡単にできる手段として利用が広がった。個人同士の連絡のほか、企業が宣伝に使ったり、国や自治体が情報伝達の手段として導入したりと、すでに社会インフラになっている。[br][br] 閲覧されていた可能性があるのは、利用者の名前や電話番号、メールアドレスなどで、通常の会話内容は暗号化されていると主張。LINEは「不適切な利用は確認されていない」と説明した。[br][br] ▽広がる不安[br][br] 懸念されるのは中国の国家情報法の存在だ。法律は「いかなる組織と公民も国の情報活動に協力しなければならない」と明記。情報セキュリティ大学院大(横浜市)の湯浅墾道副学長(情報法)は「中国企業は国家の要請があれば情報を提供する義務がある。LINEは国会議員も使っており、流出の懸念が拭えない」と指摘する。[br][br] 実際に日本のウイグル人コミュニティーでは不安が広がっている。中国政府はウイグル族への人権弾圧を強めており、日本ウイグル協会のサウット・モハメドさんは「微信(ウィーチャット)のように中国政府に情報を吸い上げられるリスクがあるとすれば怖くて使えない」と話す。[br][br] 日本の個人情報保護法は昨年改正され、施行されれば、事業者が個人情報を外国の第三者に提供する場合、国名を明記し利用者に十分な説明をすることが必要となった。[br][br] 業務の一部を海外企業に委託することは「オフショア開発」と呼ばれ、コスト削減や人材確保を目的に、中国や東南アジア諸国を主要な委託先として広く行われている。[br][br] 個人情報を含むデータの流通量が増える中、ネット上でモノやサービス、情報をやりとりする基盤を提供する巨大IT企業は、利用者保護に向けて重い責任を果たすことが求められる。