政府が今月、二酸化炭素(CO2)に課金して排出量の削減を促す「カーボンプライシング」制度の本格的な導入議論を始めた。削減効果を高めたい環境省と企業の競争力を重視する経済産業省は、2050年に脱炭素社会を実現する目標を共有するものの、手法を巡っては温度差がある。産業界には過重な負担増を警戒する声も強く、年内の方向性取りまとめまで曲折が予想される。[br][br] ▽輸入課税[br] 議論が加速したのは菅義偉首相が昨年10月、50年の温室効果ガス排出実質ゼロを宣言したのがきっかけだ。地球温暖化対策を「経済成長の制約」と考えていた経産省も推進姿勢に転じ、12月にまとめたグリーン成長戦略に、カーボンプライシングなどに「ちゅうちょなく取り組む」と明記した。[br][br] 欧米には脱炭素に消極的な国からの輸入品に「国境炭素税」を課す動きがある。米アップルがサプライチェーン(部品の調達・供給網)を含めた実質排出ゼロを掲げるなど、対応が遅れれば日本企業が世界の取引から排除されかねない状況も生まれている。経産省幹部は「国際的な議論が本格化する前に論点を整理し、準備する必要がある」と危機感を示す。[br][br] ▽選択肢[br] カーボンプライシングには国境炭素税以外にもさまざまな種類がある。それぞれの有識者会議を舞台に具体策を練る環境省と経産省の立場は異なる。[br][br] 環境省が模索するのは、CO2排出量に応じて石油や石炭などの化石燃料に課税する「炭素税」の導入だ。日本は既に地球温暖化対策税があるものの、他国に比べて税率が低い。企業ごとに排出上限を設け、超過分と余った枠を売買する「排出量取引」にも前向きだ。[br][br] 一方、経産省が目指すのは、企業の負担が相対的に軽く、競争力が損なわれずに済む選択肢だ。再生可能エネルギーなどCO2を排出しない電力であることを示す証明書を売買する制度を拡充。現在の電力小売事業者に加え、一般企業も証明書を買える仕組みにして、脱炭素電力の利用を対外的にアピールしやすい環境の整備を検討する。[br][br] ▽投資阻害[br] 経団連の椋田哲史(むくたさとし)専務理事は経産省が今月17日に開いた有識者会議で、脱炭素技術が確立されていない中では「ペナルティーとなる制度を導入してもコストが上昇するだけで、企業の技術革新に向けた投資を阻害することになりかねない」と懸念を示した。[br][br] 国際大の橘川武郎(たけお)教授は、脱炭素化にはカーボンプライシングが必要だとした上で「痛みを最小化する仕組みを官民が考えなければいけない」と指摘している。