バイデン米政権は26日、サウジアラビアのムハンマド皇太子(35)が同国人記者ジャマル・カショギ氏の殺害を承認していたとする報告書を公表、巨大産油国の「改革の顔」とされる皇太子の権威は大きく傷ついた。トランプ前米政権下で蜜月だった両国関係は一転して冷え込み、米国とアラブ諸国の対イラン戦略に影響する可能性もある。[br][br] ▽演出[br] 「車ゼロ、二酸化炭素(CO2)排出ゼロの街をつくる」。1月、ムハンマド皇太子はサウジ紅海沿岸に人口100万人規模の都市「ザ・ライン」を建設すると発表、環境に配慮する若手指導者のイメージを演出した。[br][br] 2015年に表舞台に立った皇太子は「脱石油依存」を掲げ、女性の就労拡大や厳格なイスラム社会の穏健化を打ち出した。若者や欧米の投資家に「変わるサウジ」をアピールしてきた。[br][br] だが、米国の報告書は皇太子の裏の顔をあぶり出した。「カショギ氏を拘束または殺害する作戦を承認した」「沈黙させるために必要なら暴力的手段を使うことも支持した」。人権軽視に焦点を当てた内容で、サウジ外務省は「指導者と主権に対する侵害だ」と即座に反発した。[br][br] 次期国王の座を盤石にするため、前皇太子らライバルの王族や人権活動家らを多数拘束し、王室批判を許さない態勢を確立したムハンマド皇太子。15年には隣国イエメンの内戦に介入し、イランの支援を受ける武装組織フーシ派との戦闘に乗り出した。[br][br] 対イラン圧力一辺倒の中東政策を取ったトランプ前大統領とは思惑が一致。トランプ氏はカショギ氏殺害事件で皇太子をかばい、国際批判は沈静化するかに見えた。だが、今年1月に発足したバイデン政権は人権重視を掲げ、サウジとの関係を「再調整する」と明言。皇太子に逆風が吹き始めた。[br][br] ▽米国抜き[br] イランとの核問題再交渉を目指し、イエメン内戦終結やパレスチナ支援を掲げるバイデン氏の中東政策は、地域に波紋を広げている。フーシ派のテロ組織指定も解除。サウジ系紙は「指定解除は地域を危険にする」と反発。イスラエルのテレビは25日、イスラエルとサウジ、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーンが「米国抜き」の軍事同盟結成を検討していると伝えた。[br][br] 米政権にとって、中東諸国が米国離れを起こし、イランとの軍拡競争につながることは悪夢のシナリオだ。一方のサウジも関係維持を望んでいるとみられるが、落としどころは見えない。[br](カイロ、ワシントン共同)