天鐘(2月16日)

大型トラックが列をなす。交通量が多いものの、信号機の多くは黄で点滅。歩行者は見当たらない。通り沿いの店が崩れ落ちた無残な姿をさらしている。脇道をふさぐバリケードの奥に、無人の住宅地が広がる▼国道6号は福島県浜通りを南北に貫く。海側にはあの「.....
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 大型トラックが列をなす。交通量が多いものの、信号機の多くは黄で点滅。歩行者は見当たらない。通り沿いの店が崩れ落ちた無残な姿をさらしている。脇道をふさぐバリケードの奥に、無人の住宅地が広がる▼国道6号は福島県浜通りを南北に貫く。海側にはあの「1F」。大動脈の一部は放射線量が高い帰還困難区域。通れるのは車とバイクだけ。閉じた車窓から騒々しさが伝わるのに、暮らしの息遣いは感じられない▼未曽有の原発事故から間もなく10年。約2カ月前に現地を訪ねた。災害復旧、除染、廃炉が進む。工事車両が盛んに行き交う一方で、時が止まったままの光景も目につく。あまりに皮肉な活況と静寂である▼今すぐ町を出てください―。防災無線から指示が飛んだ。暖を取るために乗り込んでいた車を走らせたが、渋滞で動かない。避難の理由が分からない。交通誘導の警察官が、なぜか防護服とマスクの重装備だった▼すぐに戻れるはずだ。大切なもの、たくさんの思い出を置いてきた。後に深刻な事態を知る。故郷に捨てられる不安感、故郷を捨てる罪悪感。遠い移住先で心が揺れた。住民の証言が痛い▼原発事故は不作為による人災だった。安全基準が強化されたものの、今も地震のたびに緊張が走る。時を経て、原子力政策は軌道修正を果たせず、矛盾を抱えて元の道へ。片や営みの再生は遠く、道の険しさが際立つ。