時評(1月24日)

新型コロナウイルスの影響により、今年の八戸えんぶりが中止になった。開催と出演を目指していた関係者の無念は察して余りある。 主催者団体は神事の取りやめを決定した上で、中心街での「一斉摺(ず)り」などを実施するため、ぎりぎりまで協議を続けた。し.....
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 新型コロナウイルスの影響により、今年の八戸えんぶりが中止になった。開催と出演を目指していた関係者の無念は察して余りある。[br][br] 主催者団体は神事の取りやめを決定した上で、中心街での「一斉摺(ず)り」などを実施するため、ぎりぎりまで協議を続けた。しかし、首都圏など11都府県で緊急事態宣言が発令され、青森県内でも学校クラスター(感染者集団)が発生。感染状況の深刻化を受け、苦渋の決断を迫られた。[br][br] 八戸えんぶりは近年、30万人前後の観覧入り込み数を記録。北奥羽地方に根付いた伝統行事として注目されている。新型コロナの影響に苦しむ地元経済界にとって、夏の八戸三社大祭が限定的な開催にとどまったこともあって、えんぶりへの期待が高まっていただけに落胆は大きい。[br][br] 早期に新型コロナが収束し、来年こそ春を掘り起こす八戸えんぶりが開催できることを願う。また、この1年間を、誇るべき伝統芸能を後世に引き継ぐため、地域のつながりを再確認する契機にしたい。[br][br] 八戸えんぶりは確かに観光資源として成長を続けている。一方、その足元では後継者育成といった課題を抱えたままだ。[br][br] 担い手の高齢化が進み、さらに参加する子どもたちの減少が続き、えんぶり組の出演数は年々減っている。祭事に欠かせない烏帽子(えぼし)などの道具を作る職人も、その技術の継承に腐心している。[br][br] 景気付けと組の維持経費の捻出も目的に、商店や会社、民家の前などで行う「門付け」に関しても、理解を示さない人が増えてきているのが実情だ。[br][br] えんぶり組の練習では、老若男女が一堂に会する。年配者から子や孫へ、技を伝える。そして、地域からの支援に対する感謝の思いも込めて、摺(す)りや舞を披露。見守る観衆は万雷の拍手を贈る。[br][br] 演じる側も見る側も、つながっている。そんな地域コミュニティーの一つの形を維持していくためには、継続的に参加者を確保し、周囲が支えていかなければならない。[br][br] 八戸市教委は、2月17日を「えんぶりの日」と定め、市立の全小中学校を休業としている。えんぶりに親しむ環境づくりから一歩踏み込んで、参加を後押しするような仕掛けがあってもいい。[br][br] えんぶり組や烏帽子職人らが参加したシンポジウムも有効ではないか。伝統の継承には現状への理解が不可欠である。