安倍晋三前政権が成長戦略の柱としてきたカジノを含む統合型リゾート施設(IR)構想が、新型コロナウイルスの感染拡大により、その実現が危ぶまれている。[br] 政府は今年1月にも「IR基本方針」を発表する予定だったが、見通しが立っておらず、構想の実現は遠のいた形だ。[br] 2020年代半ばの開業を予定しているが、多くの人が集まる大規模施設を前提としたIR事業は、いわゆる「3密」の典型になりがちで、開業しても立ちゆかなくなるリスクがある。[br] 現在、IRの有力候補地となっているのが大阪と横浜、長崎、和歌山の4カ所。大阪市と大阪府が連携して開業を計画している「大阪IR」について松井一郎大阪市長は6月の記者会見で、開業時期が運営事業者の募集要項で明記している26年度末から1、2年遅れるとの認識を示している。[br] 横浜市の林文子市長は8月の記者会見で、新型コロナの感染収束が見通せないことで、IRの要件を定める「実施方針」の再度の公表延期を発表、開業時期遅延の見通しを示した。候補地となっている自治体関係者はコロナ感染対策で、準備作業にまで手が回らない状況だ。[br] 構想実現を難しくしているのが、IRの運営事業者として名乗りを上げていた米国のカジノ大手ラスベガス・サンズなどが、規制の厳しい日本では収益が見込めないとして、撤退を表明したことだ。大手の運営業者の業績は新型コロナの影響で軒並み悪化、当面は米国での事業に集中する方針だ。[br] カジノの本場、米ラスベガスでは6月以降に、厳しいガイドラインを設けて営業を一部再開したが、客の入りは少ない。米国では昨年あたりから、オンラインで楽しめるゲームが流行しており、今後はわざわざカジノに行かなくてもよくなりそうだ。[br] インターネットを活用したビジネスが増える中で、かつては巨大な会場施設は商談会などに使われてきたが、今後は無用の長物になる恐れがある。[br] 政府はIRの開業は、インバウンド(訪日外国人)を多数呼び込んで地域の活性化につながると説明してきたが、コロナ禍の長期まん延によるインバウンドの激減により、開業の前提条件が根本から崩れてきている。[br] IRは構想段階から、ギャンブル依存を増やすことにつながるなどの理由で候補地周辺の住民から反対意見があった。これだけ「逆風」の中、菅義偉新内閣はIRからの撤退を決断すべきではないか。