インド洋の島国モーリシャス沖で日本の大型貨物船が7月下旬に座礁し、8月に入ってから千トン以上の大量の重油が流出した。懸命の除去作業が続いているが、鳥や魚のほか貴重なマングローブ林にも油が付着し、海の生態系の長期にわたる被害が懸念されている。[br] 賠償について貨物船の船主は法に基づいて対応する方針を表明し、日本から国際緊急援助隊も派遣されたが、モーリシャス政府は継続的な支援を求めている。事故当事者が責任を果たすのは当然だが、日本政府も環境被害の回復に向けた支援を先導すべきだ。[br] モーリシャスは人口約130万人。美しい自然が豊富で世界的な観光地として人気だ。18~19世紀にフランス領で、マクロン仏大統領は重油流出の2日後にはツイッターで「生物多様性が危機にひんし、対策が急務だ」と支援を表明した。[br] 一方、当事国の日本政府の反応は当初から鈍かった。小泉進次郎環境相が支援表明したのは油が流出してから9日後だった。国会は閉会中で野党から政府対応を問われることもなく、政府首脳は日本の責任を明確にする発言はしていない。[br] コロナ禍の下では現地派遣に限界もあるだろうが、国内には対策に詳しい専門家がいる。環境省が関係省庁と連携し、適切な被害回復策や被害調査方法を提供する「遠隔支援」も可能だろう。何ができるか、知恵を出すべきだ。[br] 昨年6月に大阪で開かれた20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で日本政府は「2050年までに新たなプラごみ汚染をゼロにする」との目標を取りまとめた。その責任もあるが、海洋国日本として、海洋汚染対策に積極的に取り組まなければならない。[br] 海はプラごみのようなごみのほか、汚染水の排水、化学物質などの流出で汚染される。油による汚染は船舶からの重油流出だけではない。毎年数百万トンもの油が家庭や工場から日本周辺の海に流れ込んでいるとされる。海上保安庁によると、日本近海の油による海洋汚染は年間300件近くを数えるという。[br] 海は地球表面の約7割を占め、人間に豊富な恵みを与えてくれる。国連の持続可能な開発目標(SDGs)の一つにも「海の豊かさを守ろう」がある。[br] 今回の重油流出を民間貨物船の一事故ととらえてはいけない。海の汚染を防ぐという視点、生物多様性を守るという問題意識をしっかり持つことが求められる。