天鐘(8月13日)

きのう12日は、ブルースの女王といわれた淡谷のり子さんの誕生日だった。毎年この時期、そのことを思い出すのは、戦時中の彼女に忘れられないエピソードがあるからだ▼津軽のジョッパリ。歌は大衆のもの―との信念があった。軍や警察ににらまれようが、軍国.....
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 きのう12日は、ブルースの女王といわれた淡谷のり子さんの誕生日だった。毎年この時期、そのことを思い出すのは、戦時中の彼女に忘れられないエピソードがあるからだ▼津軽のジョッパリ。歌は大衆のもの―との信念があった。軍や警察ににらまれようが、軍国調の歌は一切拒否。いつも赤い口紅と派手なドレスでブルースを歌った。そんな淡谷さんが一度だけ舞台で泣いたことがある▼慰問に訪れた九州の特攻基地。歌の途中で、出撃命令が出た隊員たちが一人、また一人と自分に敬礼をして去って行く。その姿に涙がとまらなくなったそうだ。(吉武輝子著『ブルースの女王 淡谷のり子』)▼先の大戦での日本人の犠牲者は約310万人。内訳を見れば終戦の年にその数は跳ね上がる。東京大空襲に沖縄戦。広島、長崎への原爆投下。そして、淡谷さんが涙で見送った隊員たちの命の積み重ねである▼今年もまた、あの日が巡り来る。「終戦」の意味は、今なお問われ続けている。無謀な戦いと知りつつ遮二無二突き進んだ時代。その中で散っていった尊い命。鎮魂を静かな迎え火に重ねる盆の入りである▼淡谷さんが見たのは決して勇猛果敢な兵隊たちではなかった。家族を案じ、ひたすら生きたいと願う普通の男たちである。こういう「ただの男たち」のために、軍歌ではなく生きるための励ましの歌を歌おうと淡谷さんは誓ったという。