時評(8月13日)

安倍晋三首相が、日本に向かう弾道ミサイルの発射拠点をたたく「敵基地攻撃能力」の保有を事実上促す自民党の提言を受け、前向きに検討する意欲を示している。政府は国家安全保障会議(NSC)で議論し、9月中に新たなミサイル対処の方向性を示す方針だ。 .....
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 安倍晋三首相が、日本に向かう弾道ミサイルの発射拠点をたたく「敵基地攻撃能力」の保有を事実上促す自民党の提言を受け、前向きに検討する意欲を示している。政府は国家安全保障会議(NSC)で議論し、9月中に新たなミサイル対処の方向性を示す方針だ。[br] 敵基地攻撃能力について、歴代政府は、法理論上は保有を認められると解釈しながら、現実の政策判断としては持たないとの方針を堅持してきた。憲法と専守防衛の原則から逸脱するとの慎重論が自民党内にもあり、与党の公明党は否定的だ。[br] 保有に踏み切れば、日本の安全保障政策の転換と受け止められて周辺国の警戒感を招き、軍拡競争をあおって地域の緊張を激化させる恐れもある。国民の生命と安全に関わる防衛政策を巡って、「結論ありき」の姿勢は許されない。専守防衛の堅持を基本に、最大限の慎重さを持って議論を進めるべきだ。[br] 地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」配備計画の撤回を契機に今回の検討が始まった。政府の失態の検証と国民への説明が不十分なまま、ミサイル迎撃能力に不安があるから攻撃能力保有を検討するというのは議論の飛躍ではないか。[br] 自民党の提言は、与党内の慎重論に配慮し「敵基地攻撃能力」や「打撃力」という表現は使わず、「相手領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力」の必要性を強調した。また「憲法の範囲内で国際法を順守しつつ、専守防衛の考えの下」で抑止力を向上させると指摘し、「自衛のために必要最小限度のものに限るとの従来方針を維持する」とも明記した。自衛隊は「盾」、米軍は「矛」とする日米安保条約上の日米間の基本的な役割分担は維持する立場も示した。しかし、日本が他国領域内まで攻撃できる能力を持てば、日米安保の変質は免れまい。[br] 憲法論以外にも課題は多い。敵基地攻撃能力を保有するには、装備と情報収集体制の強化などに膨大なコストと時間がかかり、費用対効果の見極めが欠かせない。ほとんどの中距離弾道ミサイルは、移動する車両や潜水艦などから発射される。標的を探知し、ピンポイントで撃破することは可能なのか。[br] 相手国の攻撃の意思を見誤れば、国際法違反の先制攻撃になる。核兵器を含む反撃を受ける可能性を想定する必要もある。[br] 日本は平和国家としての歩みを生かし、打撃力に頼らず、外交努力を中心に、地域の安全保障環境の構築に貢献できる能力こそ高めるべきだ。