天鐘(8月1日)

たまの外食なら、おいしくいただきたい。なじみの店に足を運んでも、常に納得の名物を注文する前に、旬のものを指名したくなる。この時期であれば、苦味が心地良い糠塚きゅうりか。潮が香るホヤもいい▼旬は四季の移ろい。自然の恵みを教えてくれる。そもそも.....
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 たまの外食なら、おいしくいただきたい。なじみの店に足を運んでも、常に納得の名物を注文する前に、旬のものを指名したくなる。この時期であれば、苦味が心地良い糠塚きゅうりか。潮が香るホヤもいい▼旬は四季の移ろい。自然の恵みを教えてくれる。そもそもが格別の滋味である。時節に欠かせない栄養も備える。体温を調節したり、代謝を促したり。初物を食べると寿命が75日延びる―とは古くからの生活の知恵▼等々の講釈は大人になって身に付けた。今は旬を贅沢(ぜいたく)と思えるが、実家暮らしの頃は悪戦苦闘。極太のきゅうりが次々と畑から食卓に直送される。近所に配っても消費が追いつかない。重量感が恨めしかった▼“海のパイナップル”も難敵。独特の風味を楽しめるようになったのは三十路(みそじ)を過ぎてから。コーヒー、ビールと一歩ずつ階段を上り、ようやく違いが分かる大人になれたと思いきや、胸を張るほどではないらしい▼人は甘味、塩味、うま味を本能的に好む。苦味や酸味は警戒し、経験によって体が受け入れる。「味蕾(みらい)」の数が多い子どもは味覚に鋭敏で、年を重ねると緩む。大人の肥えた舌の正体が、慣れと鈍化とは▼糠塚きゅうりは江戸時代から受け継がれる伝統野菜。肉厚のホヤは豊かな海があってこそ。旬を買い求めて夕食に並べてみよう。家族は渋い顔をするだろうか。それでも後世に伝えたい食文化である。