日本社会が直面している最大の脅威といってもいいだろう。[br] 厚生労働省の人口動態統計によると、2019年に生まれた赤ちゃんの数は86万5234人で、過去最少を記録した。合計特殊出生率は1・36で4年連続して低下。「静かなる危機」と呼ばれている人口減少に拍車がかかっている実態が浮き彫りとなっている。[br] 政府は、子育て支援策として幼保無償化や保育所の整備に取り組み、未婚のひとり親の税負担軽減制度も導入している。もちろん子育ての環境を整備することは重要な政策だが、出生率の減少に歯止めをかける政策としては不十分だ。[br] 子供を産むかどうかは個人の判断の問題だが、結婚や出産への不安や負担を軽減する社会の仕組みが必要ではないか。[br] 男女間、正規・非正規労働者間で根強く残る賃金格差、貧困、働き方改革が叫ばれながら長時間労働や男性の育児休暇取得率の低さ、妊娠・出産を巡るさまざまなハラスメントなど、「社会全体が子育てにかかわる」という意識改革も重要になる。[br] 現役世代は社会保障制度の支え手である。少子化と人口減少が続くことは、生産年齢人口の減少による経済活動の低迷を招き、年金や介護、医療制度の維持が困難になるなど、経済社会の混迷につながりかねない。とりわけ地方においては、経済や地域社会の崩壊をもたらしかねない。[br] 出生率の低下と合わせ、地方では高齢化の進展、大都市圏への人口流出が止まらない。特に地域経済活動や消費の担い手として期待される15~29歳の転出が大半という状況にあり深刻だ。人口減少が地域経済を縮小させ、さらに人口減少へとつながる「負のスパイラル」に陥る懸念がある。[br] 政府は先に閣議決定した経済財政運営の指針となる20年版「骨太方針」で、東京一極集中を見直す方針を掲げた。[br] だが、コロナ禍で浮かび上がった、東京に人と経済が過度に集中していることで高まっているリスクを地方に分散させる方策に見える。地方経済の立て直しという視点を欠き、大都市部の課題を地方に押し付けている印象は拭えない。[br] 地方再生には、地域ごとの実情を踏まえた個別戦略が必要だ。出産・子育て支援の環境整備、若者の動きを踏まえた多様な人材が活躍できる場所づくり、農産漁業分野などでの人材育成と、持続可能な地域づくりへ住民も参加し、市町村が一体となって危機に立ち向かわなくてはならない。