天鐘(7月27日)

終戦の年、長崎県内で被爆した人たちの体験談を集めた『ナガサキノート』(朝日文庫)という本がある。朝日新聞長崎版に連載された記事をまとめたもので、11年前に出た▼取材したのは20代や30代の若い記者。被爆体験を本人から直接聞けるのは自分たちの.....
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 終戦の年、長崎県内で被爆した人たちの体験談を集めた『ナガサキノート』(朝日文庫)という本がある。朝日新聞長崎版に連載された記事をまとめたもので、11年前に出た▼取材したのは20代や30代の若い記者。被爆体験を本人から直接聞けるのは自分たちの世代が最後との思いもあったらしい。応えて、被爆者たちも懸命に記憶をたどった。書き留められた数々の辛い事実に慄然(りつぜん)とさせられる▼私たちが語らなければ核はなくならない―と、強い使命感で証言を続ける人たちがいる。だが時は流れて、語り部たちの活動は細る一方だ。伝え手たる戦争や原爆の体験者は既に2割を切っている▼心配な記事が本紙にあった。被爆者の8割は今後の継承活動は困難だと考えているらしい。高齢のため出歩くのが難しく、講演なども減っているという。記憶が薄れてきているのも要因なのだろう▼さらに深刻なのは、現下のコロナ禍がその妨げになりそうなことだ。感染すれば重症化もあるから活動が制限される。語るべき人の口が閉ざされれば、あの日の記憶はさらに遠のく。厳しい現実に胸がふさがる▼話を本に戻せば、取材を受けたある女性、写真をためらう記者に「これが私の原爆」と、体の大きな傷跡を見せてくれたそうだ。対面しなければ分からぬ痛み、肉声を聞かなくては理解できない苦しみがある。あれから75年。「伝える」を考えたい。