時評(3月18日)

人道に反する残酷な犯罪だと、あらためて思う。「意思疎通のできない障害者は不幸を生むから要らない」と言ってはばからなかった被告。判決はそれを厳しく断罪した。相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で起きた殺傷事件で横浜地裁は殺人罪などで、.....
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 人道に反する残酷な犯罪だと、あらためて思う。「意思疎通のできない障害者は不幸を生むから要らない」と言ってはばからなかった被告。判決はそれを厳しく断罪した。相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で起きた殺傷事件で横浜地裁は殺人罪などで、元職員の植松聖被告に死刑を言い渡した。[br] しかし未解明の部分が多い。今後も深く掘り下げ、事件後に採られた防止策についても再点検しなければならない。惨劇が再び起きないよう抜本的に練り直したい。[br] 検察側、弁護側に事実関係の争いはなく、争点は被告の刑事責任能力に絞られていた。問題点は二つあった。第一は動機との関連だ。検察側はパーソナリティー障害による人格の偏りを強調したが、弁護側は、大麻による精神障害で心神喪失状態だったと無罪を主張した。[br] 判決は弁護側の医師の意見を退け、被告の話す動機は「到底認められないが、理解は可能だ」と述べた。薬物を飲んでいたら免責というのでは、一般の納得は得られまい。常識的な判断といえる。大麻の影響については科学的研究が進んでいないという。再発防止には影響度の解明が欠かせない。関係機関が協力して取り組んでほしい。[br] 第二は犯行の計画性だ。被告は最終意見陳述で「手に負えない障害児もいる」と、戦前にドイツのナチスが吹聴した優生思想のような考えで行為を正当化した。だが、判決は犯行には「目的に沿って一貫性がある」とし、「計画的かつ強烈な殺意に貫かれた犯行」と認めた。優生思想的な考えを退けた判決の意義は大きい。[br] 障害者を不要とする被告の発言は衝撃的だった。戦前、日本でも「不良な子孫」の出生防止をうたった国民優生法が施行されたが、戦後廃止になった。代わって公布された優生保護法は母体保護法と改称され、「不良な子孫」などの部分は削除されている。それでも人種や障害などを理由とする差別は横行している。優生保護法の歴史がもっと知られるべきだろう。優生思想からの決別が判決後の社会の大きな課題だ。[br] 公判で被害者遺族は「他人が勝手に奪っていい命など一つもない」と述べた。生命・人権の尊重がすべての出発点だ。短絡的な抹殺・排除へと走らせないようにしたい。判決はもう一つの重要な検討テーマも想起させる。生命尊重なのに殺人者の命なら国が死刑で奪っても良いのか。死刑廃止を訴える立場からの声を忘れてはならない。