時評(2月27日)

最高裁の壁は厚かった。被爆者側の失望感は深いだろう。 国が原爆症と認めなかった処分について、広島や長崎で被爆した女性3人が取り消しを求めた3件の訴訟。最高裁は請求を退ける判決を言い渡し、敗訴が確定した。 女性たちは手術などの治療は受けず、経.....
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 最高裁の壁は厚かった。被爆者側の失望感は深いだろう。[br] 国が原爆症と認めなかった処分について、広島や長崎で被爆した女性3人が取り消しを求めた3件の訴訟。最高裁は請求を退ける判決を言い渡し、敗訴が確定した。[br] 女性たちは手術などの治療は受けず、経過観察中だ。判決は、経過観察で認定をするには「積極的な治療行為の一環と評価できる特別な事情」が必要だとする初判断を示し、その事情が認められないと理由を述べた。[br] しかし、女性たちは子どもの時に被爆し、甲状腺炎などで苦しんできた。被爆者だとは表に出せず、声を上げられずにいた事情がある。[br] 政府が勝訴だとして救済の取り組みを怠ることは許されない。制度の不備を洗い出し、救済の実を挙げてほしい。[br] 被爆者援護法によると、原爆症認定には「病気が放射線に起因する(放射線起因性)」「現に医療を必要とする状態である(要医療性)」という二つの要件が必要になる。[br] 要医療性をめぐる高裁、地裁の判断は割れており、判決はそれを統一した意味がある。特別な事情があれば救済される余地を残したともいえるが、結果として行政にお墨付きを与えた形になり、認定を得る道は遠のく可能性がある。影響は大きい。[br] 原爆の被害に苦しむ人がいるのに、認定され医療特別手当を受ける人は少ない。現実を改善する必要がある。認定行政は被災者への経済的援助という社会保障的な性格を持つ。原告側はさらに、国の戦争行為から受けた被害補償の側面があると強調した。理由がある主張だろう。[br] 厚生労働省の「新しい審査の方針」は積極的な認定を定めている。その方向に反する実務は避けるべきで、財政的制約などがあるにしても積極姿勢は崩すべきではない。[br] 「方針」では対象疾病が限定されるが、検討の余地はないか。被爆者にとって医療の必要度は多様で、単純には決められない。また、原爆症自体がまだ科学的解明の途上にあるからだ。[br] 被爆者団体からは制度改善の提言が出されている。被爆者健康手帳の所持者に被爆者手当を支給し、その手当には障害の程度に応じて三つの加算区分を設けるなどとしている。検討に値する案ではないか。[br] 放射線の影響が認められる病気を除外する理由は乏しい。医学的、科学的に多様な観点から現行制度を見直すべきだ。政治や行政の責任は重い。真剣な検討を待ちたい。