時評(2月20日)

政府は、7日に定年を迎えるはずだった黒川弘務東京高検検事長の勤務を半年延長する前代未聞の人事を閣議決定した。国家公務員法の従来解釈を変更してまでの措置である。次期検事総長をめぐる露骨な政治介入の疑いが色濃く、検察の危機である。政権から独立し.....
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 政府は、7日に定年を迎えるはずだった黒川弘務東京高検検事長の勤務を半年延長する前代未聞の人事を閣議決定した。国家公務員法の従来解釈を変更してまでの措置である。次期検事総長をめぐる露骨な政治介入の疑いが色濃く、検察の危機である。政権から独立して犯罪を捜査する検察は毅然(きぜん)とした態度を示さなければならない。[br] 検察官は検察庁法に基づき、一般の国家公務員より厚い身分保障が与えられ、定年も検事総長が65歳、それ以外の検察官は63歳と定められている。[br] 国家公務員法は、退職で公務運営に著しい支障が生ずると認められた場合、1年未満で勤務を延長できると規定。政府は今回、これを適用した。[br] しかし、国家公務員への定年制導入を議論した1981年の衆院内閣委員会で、人事院幹部は「検察官と大学教員は既に定年が定められ、今回の定年制は適用されないことになっている」と明言している。[br] この矛盾を国会で追及された安倍晋三首相は「検察官の勤務延長に国家公務員法の規定が適用されると解釈することとした」と述べ、従来の政府解釈を変更した。法解釈を変更するのは、人権が著しく損なわれる恐れがある場合などよほどの事情がなければならないはずだ。政権の都合がよくなるよう変えるのは法治国家ではない。[br] そこまでして東京高検検事長を勤務延長させるのは、今春、勇退するとみられる現検事総長の後釜に据えるためといわれている。検事長は法務省の官房長、次官を計7年5カ月務め、官邸からの信頼が厚いとされる。[br] 検察は過去、政治介入で捜査が頓挫した苦い経験がある。54年の造船疑獄事件で法相の指揮権が発動され、自由党幹事長の逮捕が中止された。政権が検察の捜査に介入した戦後政治史の一大汚点だった。[br] 2010年、大阪地検の証拠改ざん事件で検察の信用は失墜。大型事件を摘発できないまま低迷時代が続いてきた。[br] しかし現在、秋元司衆院議員(自民党離党)を収賄罪で逮捕・起訴した統合型リゾート施設(IR)事業汚職事件や河井克行前法相の妻の公選法違反事件を捜査している。国会議員の汚職事件捜査は02年の鈴木宗男衆院議員(当時)逮捕以来、17年ぶり。ようやく目を覚ました。[br] 今回の人事が、次期検事総長に忖度(そんたく)を期待する趣旨であれば、検察もなめられたものである。政権に左右されない、国民の側に立った検察の独立性が求められている。