時評(2月12日)

「われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか」。フランスの画家ゴーギャン(1848~1903年)が晩年タヒチで描いた絵の長いタイトルだ。 この疑問は科学の原動力にもなった。138億年前に誕生した宇宙、46億年前か.....
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 「われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか」。フランスの画家ゴーギャン(1848~1903年)が晩年タヒチで描いた絵の長いタイトルだ。[br] この疑問は科学の原動力にもなった。138億年前に誕生した宇宙、46億年前から存在する太陽系と地球、生物や人類の研究者たちは問いを繰り返してきた。[br] ホモ・サピエンス(現生人類)が地球に現れた約77万4千~約12万9千年前を「チバニアン(千葉時代)」と呼ぶことが国際地質科学連合で決まった。日本の地名にちなむ地質年代は初めて。原子番号113番元素がニホニウムと命名されたことと並ぶ快挙といえる。[br] 地球史を刻む地質年代は117あるが、大半は地質学が早く発展した欧米の地名に由来し、新しく名付けられる年代は少ない。チバニアンは日本の地名が付く最初で最後の機会とされていた。[br] 地磁気は逆転を繰り返してきた。最後の逆転は77万4千年前に起きた。その跡が房総半島中央部にある千葉県市原市田淵の養老川沿いの地層に残されていたことが決め手になった。海底で堆積した泥の地層が隆起し、水流で浸食されて露出したありふれた崖である。[br] 岡田誠・茨城大教授ら35人の研究チームは御岳山噴火に伴う火山灰層の年代測定、花粉の微化石など精度の高いデータを英文の論文でそろえた。イタリアの2チームも同じ地質年代の命名を請求していたが、日本チームが示した根拠が評価され、国際審査で選ばれた。[br] 審査途中で思わぬ横やりもあった。異議を申し立てた日本の学者が現地の崖に地権者から賃借権を設定したため、「自由に立ち入り調査できる」条件を満たすのが難しくなった。しかし、市原市が「立ち入りを研究活動に限って認める」という条例を制定して認定を後押しした。[br] 地磁気逆転現象は松山基範京都大教授(戦後に山口大初代学長)が1929年の論文で初めて指摘した。当時疑問視されたが、60年代に受け入れられ業績が見直された。この研究の伝統も生きた。[br] 市原市田淵の地層は県道から徒歩10分で誰でも見に行ける。国際空港がある成田や羽田からは1時間ほどで、外国の研究者もアクセスしやすい。地震や火山、災害の多い日本は地殻の変動帯とともに生きている。地球の歴史を記した地層が伝えてくれる。チバニアン決定を機に地質現象に関心を高めたい。