2020年度平均の有効求人倍率は46年ぶりの下落幅を記録、新型コロナウイルス感染拡大による雇用情勢の悪化が鮮明となった。観光、宿泊といった対人型サービスは特に深刻。追い打ちをかけるように「第4波」が襲来し、大型連休の書き入れ時を直撃した。期待されるワクチンも若い世代にまで行き渡っておらず、雇用の復調には時間がかかりそうだ。[br][br] ▽枯 渇[br] 「70万、80万円あった貯金は残り10万円。あと2カ月持つかどうか」。4月中旬、東京・新宿の都庁前でNPO法人が開いた食料の無料配布には仕事を失うなどした約280人が並んだ。その一人、都内在住の50代男性が声を振り絞った。[br][br] 男性は昨年11月まで警備会社のアルバイトとして工事現場などで働いた。月20万円ほどあった収入はコロナ禍での仕事減で月数万円に落ち込んだことからバイトを辞めた。スーパーや清掃の面接を受けたが職に就けず、食費や月4万円の家賃で貯金は減る一方。「生活保護の申請も真剣に考えないと」とうつむいた。[br][br] ▽制度疲労[br] 総務省が30日に公表した労働力調査によると、前年度に比べ就業者数が最も落ち込んだのは宿泊、飲食サービス業で37万人減。男性が従事していた警備業を含む「その他サービス業」は五輪特需による旺盛な建設需要に支えられていたが、8万人減った。[br][br] 政府は雇用情勢の急変に伴い、休業手当を一部補塡(ほてん)する雇用調整助成金の拡充など対策を相次いで打ち出した。ただ雇調金は1970年代の石油危機で創設され、製造業などで働く正社員の中短期休業を念頭に置く。今回のようにパートやアルバイトが長期間職を失う事態は想定していない。[br][br] 休業手当を受け取れなかった人に対しては休業支援金・給付金を新設。官邸主導で支給要件の緩和が進んだ。しかし非正規労働者には十分に行き届いていないのが現状だ。[br][br] 雇調金は支給決定額が3兆3千億円を超え、財源の払底も懸念される。厚生労働省幹部は「制度疲労は明らかだが、他に即効性のある手段がない。どうしても雇調金頼りになってしまう」と頭を抱える。[br][br] ▽キャンセル[br] 打撃を受けた企業は雇調金のほか、勤め先と雇用契約を維持したまま従業員が他社で働く「在籍出向」や希望退職などで耐え忍ぶが、多くが大赤字に陥っている。[br][br] 3月末時点で750人が自治体などに在籍出向しているANAホールディングスは21年3月期の純損益が過去最大となる4046億円の赤字を計上。大型連休中のキャンセルも目立つ。傘下の全日本空輸の4、5月の運航率は当初計画比で6割台にとどまる。[br][br] 宿泊客が激減しているホテル業界。東京五輪・パラリンピックの特需を見込んでいたが、「ホテル椿山荘東京」を運営する藤田観光が募った希望退職には315人が応募した。別のホテル関係者は「雇用がどんどん失われていく」と嘆いた。[br][br] 大和総研の田村統久研究員は、緊急事態宣言地域などの例外を除き雇調金での助成を5月から段階的に縮減する政府方針について「雇用悪化へのリスクが高まる。経済状況によっては縮減をやめ、特例に戻すなど柔軟な判断が求められる」と指摘している。