LINE(ライン)の個人情報管理を巡る問題は、国境を超えてデータビジネスを営む上で直面する経済安全保障の課題を浮き彫りにした。人工知能(AI)など先端技術で先を行く中国に依存してきた多くの日本企業は、事業戦略の転換を迫られる可能性がある。[br][br] ▽リスク[br][br] 23日夜、記者会見した出沢剛社長は「信頼を裏切ることになった」と謝罪。中国からの個人情報へのアクセスを遮断したとし、データ運用指針を改定すると表明した。[br][br] LINEの親会社Zホールディングスはこれに先立ち、第三者委員会の初会合を開催。座長を務める宍戸常寿東大大学院教授は「(個人情報の取り扱いを定める)プライバシーポリシーの不備を超えて社会的信頼を損なうものだ」と述べ、LINEのデータ管理の在り方を厳しく指弾した。[br][br] LINEは中国の委託企業の技術者に国内のサーバーにアクセスする権限を与え、利用者の個人情報を閲覧できる状態にしていた。個人情報保護委員会は問題発覚を受け、データの国外移転に際して利用者から適切な同意を取得したかどうかなど個人情報保護法に照らして調査に入った。[br][br] だが問題は、現行規定の枠内にとどまらない。[br][br] 「外国政府による無制限なアクセスによって、わが国で取得され越境移転された個人データが不適切に利用される恐れがある。看過しがたい」。同委員会は2019年末にまとめた改正個人情報保護法の大綱で、データが日常的に国境をまたぐリスクをこう指摘した。[br][br] 背景には、国家の要請があれば事業者が情報提供を義務付けられる中国の国家情報法の存在がある。こうした懸念から、同委員会は移転先の国名明記を求める改正法を制定、規制強化に動いた。[br][br] ▽国家関与[br][br] 本人同意の確認を徹底することは、日本企業の事業運営に大きな影響を与える可能性がある。[br][br] データ問題に詳しい影島広泰弁護士は「今回の問題を見れば、いくら丁寧に説明したところで、中国へのデータ移転に利用者が同意するとは考えづらい」と指摘する。結果として、日本企業はデータ保護のため、中国に業務を委託すること自体を見直さざるを得ない展開も想定される。[br][br] 現代ではデータ獲得に国が積極的に関与するのは中国に限らない。慶応大の土屋大洋教授は、米国にも国家情報法と同様の法律があるとし「誰にどんなデータを触らせるのか、国に関係なく精査することが求められている」と強調した。