日本原子力発電東海第2原発の運転差し止めを言い渡した18日の水戸地裁判決は、事故から住民を守る最後のとりでとなる避難計画の欠陥を指摘した。計画策定が難航する原発は多く、責任を背負わされた形の自治体は苦慮する。東京電力福島第1原発事故から10年。この日は四国電力伊方原発の運転を容認する決定も出た。原発は安全に利用できるのか―。今も論争の決着は付かない。[br][br] ▽空論[br][br] 「事故が起きたら逃げられない。(避難計画は)机上の空論で無理でしょ、という内容。全国の原発に水平展開できる」。判決後の記者会見で、弁護団の河合弘之弁護士は力を込めた。[br][br] 原発の安全確保は計5層の「深層防護」という考え方に立つ。第1~4層は、故障の防止や事故の被害低減が目的で、電力会社の対策を原子力規制委員会が審査する。 第4層が破られ、大量の放射性物質が漏れた際の第5層が住民の避難計画だ。規制委の審査対象ではないが、原発の安全対策とは「車の両輪」(田中俊一前委員長)で、事実上、再稼働の前提条件となっている。[br][br] ▽困難[br][br] 福島第1原発事故では、住民避難の難しさが浮き彫りになった。福島市に住む松本康江さん(64)は「何の情報もないまま西へ逃げ続けるしかなかった」と振り返る。発生翌日、原発から北に10キロほど離れた浪江町の自宅から家族と避難したが、最初に身を寄せた知人宅ではすでに放射線量が高まっていた。夫(67)と相談し自己判断の避難を強いられた。「計画があるかどうかは命に関わる。私たちの不安や苦しみの経験が考慮された」と判決を歓迎する。[br][br] しかし事故の教訓を反映させた計画策定は難航しているのが実態だ。[br][br] 東海第2原発で避難対象となる30キロ圏人口は、全国の原発で最多の約94万人。計画が必要な茨城県の14自治体のうち、9自治体は未策定だ。県の担当者は「計画ができたと言える段階のものではない」と打ち明ける。[br][br] 県の推計では、実際の避難には原発5キロ圏内だけでも400~500台のバスと800~千台の福祉車両が必要。人口の85%は自家用車で避難する想定で、大渋滞が懸念される。判決では「(実効性ある避難計画は)今後これを達成することも相当困難」と、将来の見通しにまで踏み込んだ。[br][br] ▽無責任体制[br][br] 原発活用を掲げる政府は、内閣府が自治体の避難計画策定を支援することで計画の実効性をアピールし、再稼働を後押しする構え。経済産業省幹部は「判決には驚いたが、周辺人口94万人の東海第2原発は特殊だ。広がりはない」と強気だ。[br][br] しかし中部電力浜岡原発の30キロ圏には静岡県民の約4分の1に当たる約83万人が暮らす。関西電力と原電の4原発8基が集中する福井県に隣接する滋賀県は「再稼働を容認できる環境ではない」との立場を崩さない。県の担当者は「本当に避難できるか。自治体だけでは十分に対応できない」と、国の一層の支援を求める。[br][br] 東電柏崎刈羽原発がある新潟県が設置した委員会で、避難計画の検証に取り組む新潟国際情報大の佐々木寛教授(政治学)は「本来は規制委が避難計画を審査すべきだ。計画が機能しないのに再稼働していいというのは日本独自の問題。無責任体制だ」と警鐘を鳴らす。