【震災10年】インフラ整備の陰、心の復興進まず

 福島第1原発周辺の双葉郡からの避難者が生活する災害公営住宅=1日、福島県いわき市
 福島第1原発周辺の双葉郡からの避難者が生活する災害公営住宅=1日、福島県いわき市
東日本大震災で大切な人を亡くしたり、東京電力福島第1原発事故で古里を追われたりした人の心の復興が進まない。巨大な防潮堤、三陸沿岸を縦断する道路―。この10年、インフラ整備優先の陰で、将来不安を抱えて精神的に追い込まれた人への対応は不十分だっ.....
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 東日本大震災で大切な人を亡くしたり、東京電力福島第1原発事故で古里を追われたりした人の心の復興が進まない。巨大な防潮堤、三陸沿岸を縦断する道路―。この10年、インフラ整備優先の陰で、将来不安を抱えて精神的に追い込まれた人への対応は不十分だった。11日の宮城県多賀城市での追悼式典で、村井嘉浩知事は「目に見える復興を優先してきた」と認め「被災者の心の傷は癒やされていない。県や市町村、民間の力を結集して寄り添いたい」と発言した。[br][br] ▽1割未満[br][br] 6日、国が復興に向けて整備する三陸沿岸道路の一部、宮城県気仙沼市の7・3キロが開通した。地元の新たなシンボルとなる「気仙沼湾横断橋」では、有志が火消しの「まとい」を振り上げ、悲願成就を祝った。[br][br] これで八戸市と仙台市を結ぶ全長359キロの約87%が通行可能になった。国土交通省によると、年内に予定する全線開通で八戸―仙台は震災前より3時間短い5時間程度で行き来できる。[br][br] 国が2011~19年度に復興予算に基づいて支出した金額は、一時的な借金の返済費を除き約30兆円を超える。過半の17兆円超が道路整備や土地造成といったハード面に投じられ、心のケアや地域コミュニティーの再生といったソフト面での被災者支援は1割にも達していない。[br][br] ▽自殺者[br][br] 昨年12月12日、横浜市のビルの一室に原発事故から逃れてきた複数の人が入っていった。福島県外に避難中の被災者支援に携わる黒沢知弘弁護士(45)が開いた、東電からの賠償金に関する説明会に参加するためだ。[br][br] 慣れない土地での長期生活などで、心のつかえが取れない人ばかり。説明会が終わり、福島県から神奈川県に避難を続ける中年の女性が取材に重い口を開いた。「とにかく不安で仕方がない」[br][br] 黒沢弁護士は「心的外傷後ストレス障害(PTSD)の人は相当数いるが、本当に深刻な人は相談にも来ず、表にも出てこない」と明かした。[br][br] 厚生労働省によると、震災や原発事故に関連した福島県内の自殺者は20年末までで118人。岩手県の54人、宮城県の58人のほぼ2倍に上る。福島と宮城では、アルコール関連で市町村や保健所の指導を受けたり、相談したりした人も震災前より大幅に増えている。[br][br] ▽置き去り[br][br] 11日午後2時46分。地震発生と同じ時刻、第1原発がある福島県大熊町から川崎市に避難中のパート女性(58)は、勤務先のスーパーで仕事の手を止めて黙とうした。[br][br] 避難先は仙台市、福島県いわき市に次いで3カ所目。「あの家は原発から逃げてきた」と言わんばかりの親族、近隣住民からの差別的な視線に耐えられなかったという。[br][br] 黙とう後、政府主催の追悼式で菅義偉首相が「復興の総仕上げの段階に入っている」と語った。女性は「首相に胸を張られても響かない。とにかく早く元に戻ることを望んできたが、大熊町は同じ風景に戻らない。そういう心の部分を考えてほしい。私たちは置き去りですよ」と嘆いた。[br][br] 福島県富岡町のNPO代表、青木淑子さん(73)は「原発事故が人々の暮らしを壊し、今も精神的に苦しむ被災者が多い。こうした人を救うための人材育成の費用を惜しまないでほしい」と国に注文を付けた。 福島第1原発周辺の双葉郡からの避難者が生活する災害公営住宅=1日、福島県いわき市