吉川貴盛元農相が、鶏卵生産大手「アキタフーズ」グループの元代表から現金を受け取ったとされる事件で、東京地検特捜部の捜査の行方が注目される。[br][br] 農相在任中やその前後に吉川氏が受け取った金額は計1800万円とみられる。吉川氏は入院し、体調不良を理由に先月、衆院議員を辞職したが、特捜部は収賄容疑などで議員会館や札幌市の吉川氏の事務所を家宅捜索し強制捜査に着手した。[br][br] 吉川氏の農相在任中、日本の鶏卵生産業界は海外から養鶏方法の見直しを迫られていた。アキタ社の元代表が、農林族の重鎮とされ内閣官房参与だった西川公也元農相に現金を渡した疑いもあるほか、農水省の官僚と頻繁に会っていたとみられ、業界に有利な政策実現を政官に働き掛けた可能性が指摘される。[br][br] 野党はこの疑惑を国会の閉会中審査で取り上げたが、農水省側は捜査中として説明を避けた。18日召集の通常国会で事実関係や政策との関連をしっかり審議すべきだ。昨今の政官界を巡る疑惑に関し、検察の捜査に納得できないという声も根強い。特捜部には捜査を尽くし、全容を徹底解明してほしい。[br][br] 吉川氏は農相だった2018年10月から19年9月の間、計500万円を元代表から受け取った疑いが持たれる。農相就任前と退任後に計1300万円を受領した疑いもある。[br][br] 吉川農相当時、欧州を中心に家畜の快適な飼育環境を保つアニマルウェルフェアの考え方が強まり、過密なケージで鶏を飼う日本方式に対し、国際機関が新基準を提案していた。業界はコストなどから反対し、農水省も反論して新基準案は緩和された。ほかに鶏卵価格の下落時の生産者支援事業などでも業界側の働き掛けがあったという。[br][br] 吉川氏は任意聴取に現金を受け取った事実を認めながら、預かった金などと賄賂性を否定したという。だが元代表は周囲に、業界のため現金を渡したと話したとされる。現金が大臣の職務に関する賄賂として提供され、農水省の政策立案や決定に影響しなかったかなど、十分調べる必要がある。[br][br] またアキタ社の元代表が西川氏や元農水省幹部を接待したことも判明。政官と業界の親密さの実態を国会審議や捜査で明らかにしてもらいたい。[br][br] 安倍晋三前首相の後援会主催の夕食会費用補塡(ほてん)や森友学園問題に絡む財務省公文書改ざんなどで、検察の捜査の在り方に不信感を抱く人は少なくない。特捜部は国民が注視していることを忘れてはならない。