米大統領選で民主党のバイデン前副大統領の勝利が確実になったのを受け、菅義偉首相は「日米同盟は外交安全保障の基軸」として、電話会談や訪米の時期を模索し、バイデン氏との信頼関係を築きたい考えだ。[br] 安倍晋三前首相は4年前の大統領選直後に訪米し、就任前のトランプ氏に取り入った。ただ防衛装備品の「爆買い」や日米貿易協定に表れているように、米国第一主義を唱えるトランプ氏に対し基本的に「ノー」と言えなかった。菅首相の初訪米は来年1月20日の大統領就任式以降が有力だが、腹蔵なく話し合える関係を目指してほしい。[br] バイデン氏は同盟国とぎくしゃくしたトランプ氏と異なり、国際協調路線に回帰すると日本政府は分析。このため2021年度以降の在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)交渉で、巨額負担を求める姿勢を見せていたトランプ政権に比べ、柔軟に対応するとの見方が強い。しかし、防衛費の増額を要求してくる可能性は否定できない。[br] 難題は菅首相が「内閣の最重要課題」と位置付ける拉致問題を含む北朝鮮への対応だ。核・ミサイル問題を巡って、トランプ氏は金正恩朝鮮労働党委員長との直接対話を重ねたが、バイデン氏は首脳会談開催に厳しい条件を付ける構えだ。[br] 安倍氏は18年の米朝首脳会談後、北朝鮮への圧力一辺倒から対話路線に転換したが、拉致問題で進展はみられなかった。バイデン氏が大統領に就任すれば、北朝鮮が挑発を再開するとの懸念も出る中で、米国との歩調の合わせ方が問われる。[br] トランプ政権で経済や安全保障面の対立が激化した中国との距離感も課題となる。沖縄県・尖閣諸島周辺を含む東、南シナ海への中国の海洋進出に対し、バイデン氏も強硬路線を継続するとの見方が出ており、日本も同調する方針だ。[br] ただ、新型コロナウイルス感染拡大で延期した中国の習近平国家主席の国賓来日問題がある。与党内には首相の後ろ盾になっている自民党の二階俊博幹事長ら「親中派」もおり、米国を含めた調整が求められる。[br] 首相は所信表明演説に、50年に国内の温室効果ガス排出を実質ゼロにする宣言を盛り込んだ。その方向性はバイデン氏の政策と重なるため、協力しやすいと考えているかもしれない。[br] しかし、トランプ氏に寄り添っていた安倍氏の路線を引き継ぐ姿勢を堅持している限り、バイデン氏側との連携強化は図りにくいのではないか。「安倍外交」からの脱皮が必要になろう。