時評(8月7日)

筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性患者に薬物を投与して殺害したとして、医師2人が嘱託殺人の疑いで逮捕された。医師は女性の主治医ではなく、ネットを通じて女性から死を依頼され、金銭を受け取った上で実行している。医療行為とは無縁の暴走と言わざるを.....
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 筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性患者に薬物を投与して殺害したとして、医師2人が嘱託殺人の疑いで逮捕された。医師は女性の主治医ではなく、ネットを通じて女性から死を依頼され、金銭を受け取った上で実行している。医療行為とは無縁の暴走と言わざるを得ない。[br] 女性は2011年にALSを発症、身動きや会話ができず、ヘルパーによる支援を24時間受けていた。視線入力のパソコンでブログを書き、逮捕された医師と安楽死のやりとりをツイッターでしていたという。[br] ブログで女性は「こんな姿では生きたくない」などと書き、生死は自分で決めるとの意思を繰り返し示していた。[br] 医師2人は昨年11月、京都市の女性のマンションに偽名を使って訪れ、薬物を投与し、殺害したとされる。医師の銀行口座には女性から130万円が振り込まれていた。[br] 過去にも医師が意図的に患者を死に至らしめた事件はある。1991年の「東海大安楽死事件」は、医師が家族に頼まれ末期がんの患者に塩化カリウムなどを注射し、死亡させて殺人罪に問われ、有罪となった。[br] この事件で横浜地裁は95年、医師による安楽死が認められる要件として(1)耐えがたい苦痛がある(2)死期が迫っている(3)苦痛緩和の方法を尽くし、他に手段がない(4)本人の意思表示がある―の4項目を判示している。[br] 今回の場合、担当医でもない医師2人は、女性と面識がなく(1)~(3)を検討する立場になかった。診断、治療もせずに実行しており、全く医療の範囲から外れた行為だ。[br] 不可解なのは動機である。医師の1人は自身のツイッターで手塚治虫さんの人気漫画「ブラック・ジャック」のキャラクター「ドクター・キリコ」に言及していた。ドクター・キリコは、高額の報酬で安楽死を請け負う医師。「やっぱりオレはドクターキリコになりたい。世の中のニーズはそっちなんじゃないのかな」などと書いている。[br] まさしく漫画を地でいく事件である。2人の医師が関わっており「組織的犯行」の要素がある。安楽死を希望する人がいることは事実だ。事件の全容解明が必要である。[br] 事件を受けてALS患者の舩後靖彦参院議員は「(安楽死容認の考え方が)難病患者や重度障害者に『生きたい』と言いにくくさせ、当事者を生きづらくさせる社会的圧力を形成する」と危惧するコメントを発表した。この言葉を重く受け止め、事件の推移を注視したい。