天鐘(7月30日)

長い高校野球の歴史には土にまつわるエピソードがちりばめられる。まだ沖縄が米占領下だった時代、首里高校が持ち帰ろうとした甲子園の土が植物防疫法に触れ、捨てられたのは有名な話▼聖地の土を最初に持ち帰った人に関しては諸説ある。熊本工高の川上哲治、.....
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 長い高校野球の歴史には土にまつわるエピソードがちりばめられる。まだ沖縄が米占領下だった時代、首里高校が持ち帰ろうとした甲子園の土が植物防疫法に触れ、捨てられたのは有名な話▼聖地の土を最初に持ち帰った人に関しては諸説ある。熊本工高の川上哲治、小倉北高の福嶋一雄らが挙がる。そしてこの夏、青森市の球場に「甲子園と同じ土」が敷かれたのもちょっとした話題になった▼夏の高校野球青森県大会が終わった。今回は勝利の先に甲子園はない。当初は「なぜ今年だけ」の割り切れなさもあった。けれども連日の紙面が伝える球児たちの闘志に、そんな思いも吹き飛んだ▼確かに辛(つら)い夏である。選手たちは試合の前に自分とも闘った。理不尽な現実と向き合い、それぞれに折り合いをつけた。心を決めて臨んだ舞台で見せた全力の走攻守。それはひと夏の成長の証だったと言えるかもしれない▼青森山田と八戸学院光星の決勝をテレビで見た。山田の試合巧者ぶりは見事。対して光星の気迫の逆転にもライバルの意地を見た。夢消えてなお、プレーに込めた全身全霊。夏の最後にふさわしかった▼〈踏みしめる土の饒舌(じょうぜつ)/幾万の人の想い出〉。センバツの大会歌に一節がある。グラウンドの土は先人たちの一投一打を懐かしみ、後に声高に語る。2020年、逆境の中で頑張った55チームがいたことを、球場の土は決して忘れまい。