政府が二酸化炭素(CO2)排出量の多い旧式の石炭火力発電所を休廃止する方針を決めた。石炭火力発電の輸出支援の要件も厳格化するという。[br] 世界の脱炭素の流れに逆行するこれまでの政府の姿勢が変化したとの印象も与える。だが、政府方針を精査すると、「脱石炭」にはほど遠く、石炭火力依存を続けることが分かる。再生可能エネルギーは世界の潮流だ。大幅遅れだが、これからでもいい。速やかに日本のエネルギー構造を転換すべきである。[br] 政府方針によると、140基ある石炭火力発電所のうち発電効率が悪い旧式が114基あり、約100基を2030年度までに休廃止する。この旧式石炭火力の縮小方針、実は18年に策定されたエネルギー基本計画に盛り込まれている。動きが遅いとも言えるのだ。[br] 休廃止される旧式の出力は比較的小さいが、今後も維持される高効率の発電所は出力が大きい。高効率設備でも天然ガス発電の2倍のCO2を排出すると試算されている。今回の措置では温室効果ガスの大幅削減効果は期待できない。[br] 政府は石炭火力発電の輸出支援要件の厳格化も決めた。輸出相手国のエネルギー・環境政策を評価し、対象設備の発電効率の数値基準も明記するという。相手国の環境対策を促すことにつながるなら望ましいことだ。[br] しかし、ここでも指摘したい。いくら新型で高効率と言っても輸出された発電所は40、50年稼働する。この間、CO2を出し続けるのだ。新興国の脱炭素、脱石炭支援とはとても呼べない。[br] 現行のエネルギー基本計画では石炭火力を「ベースロード電源」と位置付けたままだ。30年度の電源構成比は26%と先進国では際立って高い。日本は「石炭中毒の国」とさえ呼ばれる。国連のグテレス事務総長は2月の気候変動対策の会合で「石炭中毒を打破しなければならない」と強調している。[br] 欧州主要国は石炭火力の全廃方針を明確に打ち出している。日本は東京電力福島第1原発事故による原発停止に伴って石炭火力への依存が高まった。その構造は今も変わっていない。[br] 一方、世界のエネルギー市場を見ると投資は再生可能エネルギーに向かい、発電コストも劇的に下がった。なのに日本は炭素税や排出量取引などの炭素価格付け政策で出遅れている。[br] 政府は昨年6月に「脱炭素社会」を目指す長期戦略を決めたが、具体的道筋は示されていない。今回の措置は戦略の決め手にはならない。