高校生でプロ棋士の藤井聡太七段が将棋八大棋戦の棋聖を奪取した。17歳11カ月、プロデビューからわずか3年余りの快挙であり、30年ぶりに最年少タイトル獲得記録を更新した。 相手は現在、将棋界最強と言われている渡辺明九段。3勝1敗の堂々たる内容で圧倒した。新型コロナウイルス感染拡大による閉塞(へいそく)感を突き破る明るいニュースだ。類いまれな若き頭脳に敬意を表したい。[br] 記録ずくめの棋士人生のスタートだった。2016年、14歳2カ月で四段となり、プロ入り。加藤一二三・九段が持つ14歳7カ月の最年少棋士記録を62年ぶりに更新した。[br] そしてプロとしての初対局から無敗で29連勝の最多連勝記録を打ち立て「将棋界に新星現れる」と話題になる。[br] 当時、将棋ソフトの不正使用疑惑が持ち上がり、棋士に対する信頼が低下。その暗雲を吹き払ったのが藤井新四段の誕生であり、29連勝だった。将棋界の「救世主」とまで言われた。[br] 囲碁、将棋は今や人工知能(AI)ソフトが人間より強くなり、プロ棋士でも勝てない。「それでも棋士が存在する理由があるのか」と問われている時代である。[br] 藤井七段の活躍は、その答えを示している。人間の営みにはドラマがあり、それが人々を魅了しワクワクさせる。囲碁や将棋のAIソフト同士の対局は、見ていても面白くない。ドラマがないからだ。[br] 棋聖戦5番勝負はまず藤井七段が連勝し、渡辺九段をかど番に追い込んだ。将棋ファンの中には「今、名人戦の挑戦中でもあり、絶好調の渡辺九段が連敗するとは」といぶかる声もあった。藤井七段の地元、名古屋のファンは「このまま3連勝だ」と期待したが、第3局は敗北。そして第4局で念願の初タイトル奪取となる。[br] 藤井七段の将棋について「『見るからにすごい手』というのはなかなかないが、そういう類いの手がある」「歴史に残る一手がいくつかある」「人間の指せる手か」などと評価が高い。[br] だが、藤井七段も一本調子で強くなったわけではない。昨年秋、負けが続いて師匠の杉本昌隆八段に「手が見えない」と弱音を吐いたという。スランプを克服したのは不断の努力があったからだろう。自分の対局をAIソフトで検討、たえず問題点を探して研究する日々を過ごす。[br] これから、さらに強くなるだろう。タイトル獲得を続けるのは間違いない。若きヒーローとともに社会も元気になりたい。