新型コロナウイルスはロシアをも直撃、プーチン大統領の政治日程を大きく狂わせた。諸困難の責任を「外敵」に負わせる従来の手法はもはや通用しない。国民の支持をつなぎ留めることができるか、20年に及ぶ治世でかつてない重大な試練にさらされている。[br] プーチン氏は年初に国家機構の再編、強化を柱とした憲法改正を提案。最大の焦点は2024年の任期切れ後の身の振り方だったが、大統領任期は「連続2期まで」に制限する考え方を打ち出し、少なくとも任期を制限する憲法の精神は順守する姿勢を示した。[br] このため後継体制に道を開きつつ、自らは「院政」を敷く構えではないか、との観測が支配的だった。[br] ところが、3月に入って様相が一変。下院での改憲案審議で初の女性宇宙飛行士として知られるテレシコワ議員が、従来の任期をゼロにリセットしてプーチン氏の続投を可能とする修正案を提出。上下両院がこれを支持、憲法裁も合憲判断を示したことから、さらに2期12年延ばし36年まで大統領を務めることが可能となった。[br] 長期続投の可能性を残すことで、「プーチン後」をめぐる臆測を一掃するのが狙いだろう。プーチン氏としては、4月22日に設定した全国投票で改憲案に過半数の承認を得て一気に発効させたい方針だった。[br] だが、思わぬ伏兵が立ちはだかる。ウイルスの感染拡大で、投票延期を余儀なくされたのだ。[br] モスクワに各国指導者を招き大々的に挙行する計画だった5月9日の対ドイツ戦勝75年式典も中止に追い込まれた。対外的な威信誇示の舞台とし、国民の求心力を取り戻したい目算が一気に崩れた。[br] テレシコワ提案も、これを受け入れたプーチン氏も、「国内安定」の確保を根拠に続投を正当化する。だが足元が既に揺らぎ始めている。コロナ禍による需要減で原油価格が急落したのも懸念要因の一つだ。石油収入が国家財政を支える屋台骨だからだ。ロシアの経済団体によれば、経済収縮により800万人の失業が出ると予想される。[br] ロシアの独立系世論調査機関レバダ・センターによると、24年以降のプーチン氏続投は支持46%に対し、反対が40%に上る。3月のプーチン氏支持率も63%と14年以降最低を記録した。[br] 今や続投どころか、24年までの任期を全うできるのかさえ、疑問符が付きかねない危機的状況に陥っている。改憲に込めた社会閉塞(へいそく)打開の成否が問われる。