迷走していた原油の協調減産が決まった。日量970万バレルと世界生産量の1割に当たり過去最大だ。新型コロナウイルス感染が広がる中、需要減に対応する産油国協議が決裂して1カ月余。一時は1バレル=19ドル台と18年ぶりの安値を付けたが、対立していた米国、ロシア、サウジアラビアの三大産油国がようやく歩み寄った。[br] 970万バレル減産は5、6月で、7月以降は需要動向を見ながら減産幅を調整する方針だ。サウジやロシアなどによる枠組みの枠外にある米国なども、独自に減産対応する。今回の決定を受けて相場は20ドル台前半で推移している。大恐慌並みの打撃を受けている世界経済にとっては、原油相場の安定が望ましい。[br] しかし現在2千万バレルともみられる需要減の動向や3カ国の思惑が絡み、先行きは依然不透明だ。感染拡大で落ち込む世界経済がオイルマネー収縮などで一層混乱しないよう求めたい。[br] 先物指標の米国産標準油種(WTI)は1月のイラン情勢緊迫化で1バレル=60ドル台を付けた後は、50ドル台で推移していたが、コロナショックによる世界的需要減で下落歩調に一変。ここから相場下支えに回るはずの産油国の協調減産が迷走したのはなぜか。3月6日の産油国協議で、中東産油国の盟主・サウジが減産を提唱したのに対しロシアが拒否し、決裂したことがきっかけだ。[br] ロシアの狙いは、市場で存在感を増す新興の米シェールオイル企業つぶしだ。価格を下げて、生産コストが割高なシェールオイルのシェアを奪い返せると読んだからだ。[br] ところがロシアの離反に怒ったサウジが一転増産を決定。減産による価格維持からシェア拡大を図り安値競争を仕掛けたことで、ロシアは想定を超えた価格下落で増産断念に追い込まれた。原油収入に大きく依存する財政構造はサウジも同様で、相場急落は大きな痛手となるのは明らかだ。[br] 一層窮地に立ったのは米シェールオイル企業だ。生産効率化で40~50ドルで利益が出るようになり、サウジやロシアのシェアを徐々に浸食したが、価格急落で、経営破綻した企業も出た。[br] 「コロナショック」に加え、シェールオイル業界の苦境は、再選を狙うトランプ大統領にとって黙認できない事態だ。両国に減産を強く迫る一方で、生産調整の枠外国でありながら、事実上の協調減産に踏み込んだ。とはいえ呉越同舟の産油国がどこまで連携を持続できるか。全ては相場動向次第だろう。