天鐘(3月3日)

尾張の足軽から天下人へ。豊臣秀吉は日本一の出世男とされる。巧みな処世術で相手の懐に入り、飄々(ひょうひょう)としつつ千思万考。快活な調子者、度量が大きい人格者、乱心の独裁者…。語り継がれる個性がこれほど豊かな人もいない▼歴史上の傑人も、ねね.....
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 尾張の足軽から天下人へ。豊臣秀吉は日本一の出世男とされる。巧みな処世術で相手の懐に入り、飄々(ひょうひょう)としつつ千思万考。快活な調子者、度量が大きい人格者、乱心の独裁者…。語り継がれる個性がこれほど豊かな人もいない▼歴史上の傑人も、ねねの前では男の弱さをさらした。里が同じ糟糠(そうこう)の妻。子どもに恵まれず、多くの側室を抱えていても、必ず正室の元へ帰った。トップが孤独なのは世の常。膝枕で愚痴を聞いてもらったらしい▼肌で触れ合うスキンシップは、深い愛情や信頼の象徴である。秀吉は安心感、癒やし、ある種の独占欲で満たされたかったのか。特別な安らぎを求め、赤ん坊が甘えるかのごとく身を預けた▼ふと耳かきの心地を思い浮かべた。小さかった頃、膝枕に飛び込んだ記憶がある人は多いだろう。直(じか)に感じる親のぬくもり。刺激を受けた耳の迷走神経が、痛がゆい気持ち良さを増幅させる。まさに至福の時だ▼一方で耳かきには“不要論”も。やり方によっては内部を傷つけ、垢(あか)を押し込んで栓塞(せんそく)を招く。あくびや咀嚼(そしゃく)に伴うあごの動きで、老廃物はゆっくり自然に排出される。気になる場合、耳の入り口を軽く拭き取るよう掃除する▼耳かきの是非はともかく、膝枕は親愛の証し。子どもが犠牲になる悲劇が後を絶たない昨今、とても大切な行為に思える。かつて自分が抱いた幸福感を、同じように注いであげたい。