今年4月から治療や薬の対価として医療機関に支払われる診療報酬の改定内容が決まった。大きな柱は医師の働き方改革への後押しだ。長時間労働を強いられている病院勤務医の負担を軽減するための報酬などを手厚くした。[br] 厚生労働省の調査では、病院勤務医のうち過労死ラインである年960時間以上の残業をしているのは4割に上り、過労死ラインの2倍以上という人も1割いる。医師の過重労働は医療の安全にも関わるだけに改革を着実に進めたい。[br] 具体的には救急搬送を年2千件以上引き受ける病院を対象に、1回の入院で5200円(窓口負担は3割の人で1560円)を加算する。これを原資にして医師を増やし、交代で勤務できる体制などを整え、仕事を分担できる看護師や医療補助者を増やしてもらう方針だ。[br] ただ、地方の病院では慢性的な医師不足に悩まされているのが実態だ。報酬が増えても新たな医師を確保するのは容易なことではない。同時に医師の地域偏在を是正する対策もこれまで以上の強化が求められる。[br] さらに、紹介状のない患者が大病院を受診したとき、通常の窓口負担とは別に初診で5千円以上、再診で2500円以上の追加料金を求める制度の対象も、現在の400床以上から200床以上の病院に拡大する。[br] 大病院への患者集中を防いで医師の負担軽減を図るのが狙いだが、背景には「大病院のほうが安心」という根強い患者心理がある。この受診行動を変えるには地域に信頼できる「かかりつけ医」を増やすことがより重要だ。[br] いつでも診療や相談に乗り、いざというときは入院する病院も紹介してくれる。そういうかかりつけ医が身近にいれば患者も心強い。育成にもっと力を入れる必要がある。[br] 2024年度から勤務医の残業は原則年960時間、地域医療を担う場合は年1860時間が上限になる。地域医療の質を低下させかねないという懸念もある中で、うまく対応するには診療報酬での誘導だけでは限界がある。報酬を増やせば患者の窓口負担増にもつながる。[br] 病院の役割分担を進めて診療体制の効率化を図らなければならない。厚労省は地域の中で役割が似ている病院の再編・統合を促す「地域医療構想」を進めているが、公的病院や民間病院が混在しているだけに難航しているのが現状だ。調整を加速させ、医療提供体制の抜本的な構造転換につなげてもらいたい。