早期・希望退職を募る人員削減策を進める企業が増えている。しかも、通期の最終損益が黒字にあるなど、業績の好調な企業で広がる「黒字リストラ」が特徴だ。[br] 東京商工リサーチの調査では、上場企業の2019年の募集対象者数は延べ36社、1万1351人に達した。過去20年間で社数、人数ともに最少を記録し、人員リストラ策に一服感の出た18年(12社、4126人)の約3倍に膨れ上がっている。[br] 20年もすでに9社、計1550人の早期・希望退職を予定している企業が判明。このうち7社は業績が好調な「業界大手」が占めている。背景には少子高齢化などによる国内の産業構造の変化があり、事業と人員の「構造改革」に取り組まざるを得ない産業界の危機意識がある。[br] 製造業では、データ解析やマーケティングなどの分野で不足する人材の確保が急がれている。また食品や消費財、小売業などの業界でも少子高齢化による消費の低迷や既存事業の見直しなど、国内市場の環境変化に対応した事業と人員の態勢見直しが課題だ。[br] 経団連は、今年の春闘方針で年功型賃金や終身雇用を柱とする日本型雇用制度の見直しを重点課題として掲げている。デジタル人材の確保・育成が不可欠な課題であるとの認識によるものだ。[br] 確かに、経済のデジタル化や人工知能(AI)を積極的に活用した事業展開は今後の経営上、避けられないだろう。しかし経営環境の変化に対応した社員のスキルアップ(技能向上)やセカンドキャリアの育成も企業経営者の責任だ。人材育成の機会を失うことで、将来を見据えた経営戦略の道筋を誤るようなことがあってはならない。[br] リストラの対象者は、1990年代に大量採用されたバブル世代(50歳前後)や団塊ジュニア(45歳前後)が多い。再就職の環境は厳しい世代といわれている。[br] 政府は通常国会に、「70歳まで働く機会の確保」に向けた関連法改正案を提出し、高齢者でも働きやすい環境の整備と、社会保障財政の安定化や人手不足解消につなげたいとしている。[br] また長年就職難や生活難に苦しんできた就職氷河期世代(30代半ばから40代半ば)の非正規雇用者を正社員採用する政策を進めている。こうした雇用促進政策に企業の人員リストラが影響を及ぼす懸念もある。雇用全体の不均衡が生じないよう、整合を保って働き方の見直しを進めることが必要だ。