いずれも医師の山本直樹容疑者(43)と大久保愉一容疑者(43)ら3人が、山本容疑者の父親に対する10年前の殺人容疑で京都府警に12日逮捕された。死因特定に重要な遺体はなく、時の壁も立証に立ちはだかる。父親は死亡時77歳。大久保容疑者は「高齢者を『枯らす』技術」と題したブログを運営していたとされ、動機の解明も焦点になる。[br][br] ▽解剖所見なし[br] 府警によると、父親について事件性の有無を調べる検視や司法解剖は実施されていない。12日の逮捕後の報道陣への説明で、府警は死因や殺害方法は示さなかった。刑事司法の専門家は「殺人罪の立証で、死因の特定は最も基本的な部分だ」と指摘する。防犯カメラの映像や衛星利用測位システム(GPS)の位置情報なども捜査に積極活用されるが、記録が残っていない可能性もある。[br][br] 複数の捜査幹部は「殺人事件で最も基礎的で重要な資料の一つの『遺体の解剖所見』がない。通常、死因や殺害方法の科学的究明は捜査の根幹であり、極めて難しい事件」と共通の見方を示す。[br][br] ある幹部は逮捕に至った経緯について「執念の捜査だ」と明言を避けたが、物証が乏しい中、古いメールや証言といった状況証拠を丹念に積み重ねたとみられる。[br][br] 長崎県の病院の元院長が2010年、養子縁組した母親を殺害した事件では元院長が虚偽の死亡診断書を書き、遺体は検視されず火葬された。県警は関係者の証言を集め1年後に逮捕。有罪の実刑判決が確定した。[br][br] ▽「仏 心」[br] 山本容疑者、大久保容疑者は筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の嘱託殺人事件で既に起訴されている。19年11月、患者の依頼を受け、胃ろうから薬物を注入し、急性薬物中毒で死亡させたとされるが、府警や京都地検は認否を明らかにしていない。大久保容疑者はインターネット上で安楽死を肯定する考えを発信し、患者とツイッターでやりとりしていた。[br][br] 一方で大久保容疑者は、自身が運営していたとみられるブログで高齢者への関心も示していた。介護施設などから運ばれてくる「よく見る高齢者」について「痛々しいですし、こういう人に医療行為を続けるのもためらわれるのですが、変に仏心を出して手を下せば殺人犯です」と記していた。[br][br] 山本容疑者の父親は長野県の病院に入院していた。ALS事件のような嘱託はなかったとされ、府警はブログへの書き込みも踏まえ、慎重に動機を解明するとみられる。