高齢者に新たな負担を求める医療制度改革関連法案は、今国会で成立する見通しとなった。菅義偉首相は制度改革により「若い世代の負担上昇を抑える」と意義を強調するものの、現役世代の負担抑制効果は年720億円程度。現役世代が75歳以上の後期高齢者医療制度に支払う年約7兆円の1%にすぎず、効果は限定的だ。膨張を続ける社会保障費全体を抑制するには、さらなる抜本改革が必要だ。[br][br] ▽1・5倍[br] 「2040年に向かって高齢化のピークを迎える。国民皆保険制度を守るためには、いろんな改革をしていかなければならない」。衆院本会議での採決を控えた11日午前、田村憲久厚生労働相は記者会見で強調した。[br][br] 社会保障制度を圧迫する要因の一つが、増加が続く医療費だ。2000年度に30兆1千億円だった国民全体の医療費は、21年度は予算ベースで46兆6千億円。20年間で1・5倍に跳ね上がった。[br][br] このうち75歳以上の医療費は、21年度は4割に当たる18兆円。高齢になるほど病気にかかりやすく、高齢化が進めば医療費の総額も膨張する構造だ。22年からは人口の多い団塊の世代が後期高齢者になり始めて医療費が急増し、現役世代の負担も一層厳しくなると見込まれる。[br][br] ▽1人700円[br] 年720億円の抑制効果で十分なのか―。国会でも論戦になった。野党は、コロナ下で生活に不安を抱える高齢者が多い中、わずかな効果しか得られない改革だと反発。立憲民主党の山井和則氏は「1人当たりでは年700円。そのために高齢者の負担を2割にする理屈は通らない」として、すぐに制度を見直す必然性はないと訴えた。[br][br] 後期高齢者医療制度では、自己負担を除く財源の4割は現役世代の保険料から捻出する「支援金」で賄われている。[br][br] 厚労省の試算では、21年度に6兆8千億円の支援金が、22年度には7兆1千億円、団塊の世代が全員75歳以上になる25年度には8兆1千億円となる。2割負担を新設し、22年度に通年実施したと仮定すると支援金を720億円抑制する効果はあるが、74歳以下の人口全員で割ると1人当たり年700円程度になる。[br][br] ▽第一歩[br] 政府は、2割枠新設だけでは社会保障制度全体の財政改善にはつながらないと認識している。法案の付則には「法律の公布後速やかに、社会保障制度の改革および少子化に対処するための施策について、総合的な検討に着手する」と書き込んだ。ある与党議員は「今回の改革は、次のステージへの第一歩だ」と強調した。