経団連は、中西宏明会長が病気療養のため任期途中で辞任を決める異例の事態となった。日本型雇用の見直しやデジタル化推進に意欲を示し「本格政権」が期待されたが、新型コロナウイルス対応にも追われ改革は道半ばで積み残された。緊急登板となる住友化学出身の十倉雅和次期会長は、脱炭素化や米中対立など日本経済が直面する難題へ手腕が問われる。[br][br] ▽期待[br] 「発信力があり、政府との関係も良かった。残念だ」。経団連幹部は中西氏の辞任を悔しがる。出身母体の日立製作所の経営立て直しに手腕を発揮し、早くから本命視されていた中西氏が経団連会長に就いたのは2018年5月。それまで2代の会長企業だった東レ、住友化学と比べ、規模や知名度で日本を代表する日立からの起用に、経団連内の期待は高まった。[br][br] 中西氏は経済財政諮問会議の民間議員としても存在感を示し、積年の課題である日本型雇用の見直しや、コロナ禍で遅れが顕在化したデジタル化の推進の必要性を繰り返し訴えた。経済界が慎重だった脱炭素化に前向きな姿勢を示すなど柔軟性も見せた。[br][br] ▽異変[br] しかし19年5月に最初のリンパ腫が判明、同9月に復帰したが昨年7月に再発が分かり再び入院治療するなど、任期中は病気との闘いに直面した。それでも会長業務はオンライン中心でこなし、今年3月下旬のオンライン会見でも回復ぶりをアピールして続投に意欲を示していた。[br][br] 異変が生じたのは、抗がん剤治療の重い副作用に加え、再々発の疑いが判明した4月に入ってから。中西氏が13日に経団連の久保田政一事務総長に電話で辞任を伝えてから、中西氏や歴代会長らと相談した久保田氏による就任要請を十倉氏が20日に受け入れるまで、わずか1週間の急展開だった。[br][br] ▽未知数[br] 「突然のことで非常に驚いた」と5月10日の記者会見で語った十倉氏は、10年から14年まで経団連会長を務めた故米倉弘昌氏の出身企業でもある住友化学で、経営企画などの要職を歴任。しかし経営者としての知名度が必ずしも高いとは言えず、脱炭素化など業界ごとに温度差がある課題も多い経済界をまとめる指導力は未知数だ。[br][br] 中西氏から引き継いだ経済・産業構造改革の課題に加え、米中対立の激化で資源やサプライチェーン(供給網)の確保など経済安全保障の重要性も増している。「政治と経済が連携していくことが非常に大事だ」と訴えた十倉氏にとって、難局下での船出となる。