歴代の米大統領が模索したアフガニスタン駐留米軍の完全撤退が始まった。「米史上最長の戦争」開始から20年を経ても治安の改善は見通せず、見切り発車の感は否めない。米軍の後ろ盾を失うアフガン政府に対し、反政府武装勢力タリバンは武力を背景に国政復帰をもくろむ。和平協議が停滞する中、国情の混迷は必至で「無責任な撤退」との批判も出ている。[br][br] ▽茶 番[br] 「タリバンに合意案を提示して暫定政権発足を具体的に議論するつもりだったが、現状では成果を出せるとは思えない」。トルコで4月に予定されていたアフガン和平を巡る国際会議について、政府で和平プロセスを主導する国家和解高等評議会メンバーのカヌニ元第1副大統領が嘆いた。[br][br] タリバンはバイデン米大統領が打ち出した9月11日までの米軍撤退に反発。昨年2月にトランプ前米政権と結んだ米タリバン和平合意に基づく4月末までの撤退を求め、会議不参加を表明した。「嫌々参加しても茶番になる」とカヌニ氏。米軍撤退をきっかけに内戦激化も予想され、全面的な戦闘すら覚悟している。[br][br] ▽厭 戦[br] 2001年の米中枢同時テロを受け、当時のブッシュ政権はタリバンを攻撃。駐留米軍はオバマ政権時に最大10万人規模に膨らんだ。オバマ元大統領は16年末までの完全撤退を模索したが、治安が回復せず断念した。早期撤退を掲げたトランプ前大統領はタリバンと和平合意を締結。北大西洋条約機構(NATO)との調整不足が露呈し、バイデン政権が撤退期限を延期した格好だ。[br][br] 「駐留隊員には、同時テロの際に生まれていなかった者もいる」。バイデン氏は4月28日の施政方針演説で、国民の厭戦(えんせん)気分を代弁するように語り掛け、改めて「永遠に続く戦争」を自らの手で終わらせると明言した。[br][br] 情勢安定化などの条件を付ければ再び「駐留延長の材料になる」(米政権高官)ため、無条件撤退に踏み切ったバイデン氏。ただ米軍幹部も撤退後の懸念を隠さない。米軍の支援なしにタリバンの攻撃を受ければアフガン国軍が「崩壊するのは確実」(米中央軍のマッケンジー司令官)。撤退後も周辺地域から支援は続けると強調するが、具体策は示されていない。[br][br] ▽皮 肉[br] アフガン安定化にはタリバンに影響力を持つパキスタンの協力が不可欠だが、同国はバイデン政権と対立する中国と強固な関係を築く。パキスタンのジャーナリスト、イムティアズ・グル氏は「20年かけて周囲に親米国すらつくれなかったのは皮肉だ」と冷ややかだ。[br][br] トランプ前政権との合意期限が守られなかったことに憤るタリバン。ある戦闘員は「出て行こうが、残留しようが、もう関係ない。ジハード(聖戦)は終わらない」とぶちまけた。(カブール、ワシントン共同)