名古屋市長選で、河村たかし氏が与野党4党推薦の元市議らを破り5選を果たした。対立する市議会主要会派を「既得権益を守ろうとしている」と断じ、対決姿勢をアピールする戦略が奏功した。だが、得票にはかつての勢いはなく、批判勢力を攻撃して自らの求心力を高める「敵対政治」の手法に限界が垣間見える。自身が「集大成」と位置付ける次の任期4年の成果が問われる。[br][br] ▽逆風[br] 「いろいろあったけど、皆さんから温かい信託を受けた」。投開票から一夜明けた26日早朝、河村氏は名東区の地下鉄駅前で街頭演説した。未明まで報道対応が続き、ほとんど寝る時間がなかったとみられるが、晴れやかな表情で通勤客らに手を振った。[br][br] 河村氏にとって、今回は逆風の中での選挙戦となった。自らが旗を振った愛知県の大村秀章知事のリコール運動を巡って署名偽造問題が発覚。自民、立憲民主、公明、国民民主4党は「前代未聞の不祥事。今回こそは勝てる」(自民党関係者)と判断し、元市議にそろって党本部推薦を出して組織戦を展開した。[br][br] ▽余裕[br] だが「特権階級」と位置付ける市議会や公務員を非難の的にして支持を集めてきた河村氏。主要政党による「包囲網」にも「家業化した議員相手で戦いやすいわ」と余裕の表情を見せた。選挙戦では、共産党も元市議を支援したことを逆手に取り「自民、共産連合軍。河村と議員生活協同組合の戦いだ」と繰り返し強調した。[br][br] 過去4回の市長選では対立候補を大差で打ち負かし、40万票差をつけたケースもあったが、今回は元市議に約4万8千票差まで迫られた。リコール署名偽造問題に加え、「反対意見があっても意に介さず、自らの政策や持論を押し通す政治姿勢が見放されつつある」(市幹部)のは間違いない。[br][br] ▽苦言[br] かつての盟友や腹心が次々と離れていくのも河村氏の政治スタイルが要因だろう。リコールを目指した大村氏は2011年に市長選と知事選をともに戦った仲間。元副市長も17年の市長選に対立候補として出馬した。[br][br] 河村氏は次の任期4年で市長を退くと宣言している。名古屋城天守閣の木造復元、キャッシュレス決済での還元策などいずれも市議会の協力がなければ実現しない。新型コロナウイルス対策では愛知県との連携は不可欠だ。[br][br] 大村氏は26日の記者会見で「得票が拮抗(きっこう)したことに鑑みれば、民主主義の基本を踏まえた対応を期待したい」と述べ、対立する意見にも耳を傾けるべきだと河村氏に苦言を呈した。